胃の後ろにあり、長さ20センチほどの左右に細長い臓器・膵臓(すいぞう)。がんになった場合の予後は非常に良くありません。日本の5年後の生存率は全てのがんで6割なのに対し、膵臓がんは1割程度です。膵臓がんの中でも、特に難治性のタイプへの新しい治療法を岡山大や富山大などの研究チームが開発しました。がんの遺伝子を調べ、グルコース(ブドウ糖)という甘い物質を取り込みやすいことに気づき、その特徴に合わせた薬を作って治療効果をマウスで確かめました。
今回の研究では、放射線治療の一種「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の改良に取り組みました。BNCTでは、ホウ素に中性子が当たると核分裂する原理を利用します。ホウ素を取り込んだがん細胞に向けて中性子を照射すると、核分裂でアルファ線などの粒子が発生し、細胞を破壊します。がん細胞だけに集まりやすいホウ素薬剤を作ることが、治療効果を高める鍵となります。 BNCTは、国内で2020年に頭頸部(とうけいぶ)がんで保険適用され、さらに悪性の脳腫瘍や皮膚のがんへの適応拡大に向けて、臨床試験(治験)が進んでいます。国内で薬事承認されているホウ素薬剤は、「BPA」というアミノ酸にホウ素が付いた1種類だけです。しかし、膵臓がんは、遺伝子を調べたところ、BPAの「取り込み口」となるタンパク質が少なく、BPA以外を使ったBNCTの方が治療効果が良さそうということが分かりました。 さらに、膵臓がんの特徴として表れる腫瘍マーカー「CA19-9」の濃度が血中に高い、難治性の膵臓がんで調べると、グルコースの方が取り込みやすいことが分かりました。そこでチームは、グルコースを付けたホウ素薬剤「G-BSH」を開発。この薬剤を投与すると、難治性の膵臓がん細胞に取り込まれたホウ素の量は、BPAの8~10倍ほどになりました。 チーム代表で岡山大中性子医療研究センターの道上宏之・副センター長は「膵臓がんでも、甘い物が『好き』なタイプとそうでないものがある。遺伝子を調べて、がんの好みに合わせたホウ素薬剤を使って治療するBNCTの治療戦略が有用だと世界で初めて示すことができた」と話します。膵臓は体の奥に位置する臓器なので、実際に人でBNCTの治療をする時は、手術によって開腹してから中性子を照射する方法が有効と想定されます。チームは5~10年後の治験を目指し、より効果が高いホウ素薬剤の開発を進めていきたいとしています。(増井のぞみ)
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