自認する性別が出生時と異なるトランスジェンダー女性の権利などを巡り、慎重な議論を訴える団体「女性スペースを守る会」(神奈川県大和市)が、交流サイト(SNS)で「差別団体」と指摘され名誉を傷つけられたとして、大学講師の男性に慰謝料55万円の支払いなどを求めた訴訟で、横浜地裁(小西洋裁判長)は12日、請求を棄却した。

◆「意見・論評の域を逸脱するものとはいえない」 

 判決はSNSでの投稿の主目的を、差別への反対表明を通じて「公益を図ることにあった」と認め、表現も「意見ないし論評の域を逸脱するものとはいえない」とした。団体側は控訴する意向を示した。

横浜地裁

 訴状などによると、団体側が名誉毀損(きそん)と主張したのは、相模女子大非常勤講師の劉霊均(りゅうれいきん)さんが2022年9月、ツイッター(現X)に書き込んだ「悪質トランス差別団体」という表現。  訴訟で劉さん側は、団体が設立趣意書で「女性トイレが身体男性に開かれれば、性暴力被害や盗撮被害が増える」などの見解を示したことを踏まえ「性的少数者の集団を犯罪予備軍のように扱い、社会の不安をあおり立てることは差別だ」などと反論していた。  劉さんは判決後のオンライン会見で「さまざまな性で生きる人たちの本当の姿を見てほしい」と述べた。    ◇

◆地裁が虹色のアクセサリー着用を制限

 横浜地裁での4月下旬の口頭弁論で担当者が、傍聴に訪れた30代女性が着けていたLGBTQら性的少数者を象徴するレインボーカラー(虹色)のピンバッジやネックレス計3点を外すよう求めた。大きさはいずれも2センチ四方程度。傍聴規則では裁判長らの判断に基づく傍聴人の所持品制限を認めている。女性は従って外したが「アイデンティティーを踏みにじられるようで屈辱的だった」と憤る。

傍聴時に外すよう求められたネックレスやピンバッジ

 提訴した団体側は地裁への上申書で「心理的圧迫があってはならない」として、法廷内への虹色の所持品持ち込みを禁止するよう訴えていた。地裁総務課は制限の理由を「裁判体の指示による」と述べた。  同様の例は性的少数者がかかわる他の裁判でもあった。福岡地裁は昨年6月、同性婚を認めない現行制度の違憲性を問う訴訟で、虹色の所持品を制限。最高裁も同9月、性別変更に関する家事審判の特別抗告審で、傍聴人に虹色のマスクを外すなどの対応を求めた。  最高裁は取材に「着用は一定の主義主張をアピールする行為で、他の傍聴人らに『裁判所がアピールを受けて判断するのでは』との誤解を生む可能性がある。(制限なしでは)国民の司法への信頼を損ないかねない」と答えた。  12日の判決後に記者会見した劉霊均さんは「性的少数者や支援者は暴力的という事実無根の話に基づいた対応で、不条理だと感じた」と述べた。 (奥野斐、森田真奈子、太田理英子) 

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