沖縄県内で相次いで発覚した米軍関係者による性的暴行事件。政府は事件が起きたことさえ県に知らせていなかった。

12日から始まる米空軍兵の裁判を前に、プライバシーの保護と情報提供のあり方を改めて考える。



▽フラワーデモの参加者
「二度とこのような事件が起きないようにと、何度言ってきたことでしょう」
「(基地を)沖縄に一方的に押し付けて、一番弱い私たちが守らなければいけない子どもたち、女の人たち、弱い人たちに、こんな犠牲を強いて。何なんですかこの社会は」

知らされないまま続発していた性暴力

沖縄県内では去年から今年5月にかけ、米軍関係者による性的暴行事件が5件発生していたことが発覚。

▽玉城知事(6月28日)
「言葉にならないですね。本当に怒り心頭です」

日米で合意した事件・事故の際の通報手続きが機能せず、県警も、被害者のプライバシーなどを理由にいずれの事件についても県に連絡していなかった。

▽林官房長官(6月28日)
「関係者の名誉、プライバシーへの影響、将来のものも含めた捜査公判への影響の有無程度を判断した上で、公表するか否かやその程度そして方法を慎重に判断をしているものと承知をしております」

事件を把握していた政府も県に一切連絡せず、県に情報が伝わらない間に次々と新たな事件が起きていたー


知っていたのは米国。
しかし、空軍兵による未成年の誘拐・暴行事件を把握していたエマニュエル駐日米国大使は、5月に与那国島を訪問した際、事件について一言も触れることはなかった。

日米関係に詳しい沖縄国際大学の前泊博盛教授は、政府と米側の対応をこう指摘するー

▽沖縄国際大学 前泊博盛教授
「日米両政府がしっかりと隊員教育、あるいは隊員に対する警鐘を鳴らしている場合には、犯罪はかなりの数抑止されていく。そういう意味では、隠ぺいをしていたかのような扱い、あるいは情報が共有されていなかったことは大きな問題だと思います」

警察関係者「県と県警が会話できなくなっている」

一連の事件の情報共有のあり方について県の幹部はー

▽沖縄県幹部
「過去にないレベルで関係機関との連携が取れておらず、向いている方向が真逆なことに危機感を感じる」「これまで米軍絡みの事件・事故が起きた際は、地位協定など米側との対応が課題だったが、(現状は)足元の課題が大きい」



一方、県警幹部や元幹部はー

▽県警関係者A
「被害者のプライバシーを保護するという考え方はこれまで以上に強くなっている。事件を公表すれば政治的な動きに使われることへの躊躇、やりづらさはある」
▽県警関係者B
「プライバシーを保護した広報はいくらでもできたはず。これまでと比べて県と県警がここまで会話ができなくなっているのに驚く」


プライバシー保護を理由に、県にすら情報を共有しないことは妥当なのか。琉球大学法科大学院の矢野教授は被害者のプライバシーに配慮した発表ができたはずだと指摘する。

▽琉球大学法科大学院・矢野恵美教授
「どの事件でも被害者のプライバシー保護は重要なので、“プライバシーを守るのが必要だから県に伝える”とか、“伝えない”というものではない。伝えた先でプライバシーが侵害されないように県と打ち合わせ、何をどこまで誰に公開するということを打ち合わせればいいだけ」

沖縄防衛局にさえ伝達されていなかった今回の事件。

矢野教授は、情報が正しく共有されないことで、米軍人が加害者である場合に必要となる補償の手続きが遅れるなど、被害者にとってのデメリットが大きくなったと指摘した。

▽琉球大学法科大学院 矢野恵美教授
「書類を作るのは沖縄防衛局なので、そもそも沖縄防衛局が「知らない」となると、この手続きができなかった」

「結局、隠していたことでより大きな騒ぎになることは分かっているわけです。むしろこうして大騒ぎになることの方が、被害者の方にとってはよっぽど辛いと思う。ですので、適切に県と情報共有するべきであった」


国内の米軍専用施設の約7割が集中する沖縄では、これまでにも米軍関係者による事件事故が繰り返されてきた。

1995年には未成年の少女への性的暴行事件が発生し、基地の整理縮小を求めるうねりが高まった。

▽1995年の県民大会
「私たちに静かな沖縄を返してください。軍隊のない悲劇のない平和な島を返してください」

2008年に発生した米海兵隊の男による中学生への性的暴行事件では、駐日米国大使が在日米軍の司令官とともに直接、知事に謝罪。軍は軍人らの外出禁止などの措置を取り、被害者への手紙を手渡すこともあった。

しかし今回は米側の謝罪はなく、綱紀粛正を図る動きも伝わってこない。

今後の情報共有は「可能な範囲で」曖昧さ残す

▽琉球大学法科大学院 矢野恵美教授
「軍の中には軍の法律があり、それと日本の法律は違う。日本に限らず、違う国に赴任した時には結局基地から出るわけですから、出る以上はその国の法律、少なくとも性犯罪や交通事犯について、(米軍の要員は)規定を研修をしてほしい」


政府は先日、新たな連絡体制の運用を発表したが、プライバシー保護を理由に自治体へ伝える情報は「事案ごとに可能な範囲の内容で行う」としていて、その実効性は不透明なままだ。

事件の被害者の心のケア、そしてプライバシーの保護が何よりも優先されるのは当然のことだが、その上で、再び同じような事件を起こさないために関係機関がどう情報共有すべきなのかが問われている。(取材 平良優果・上江洲まりの)

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