札幌市の第三セクター「札幌ドーム」が、プロ野球日本ハムファイターズの本拠地移転後初となる2024年3月期決算を公表。純損益が過去最大の6億5100万円の赤字になった。収入の3割を占め、「稼ぎ頭」だったプロ野球の試合を逃した影響が経営を直撃。公共機関が所有する大規模スポーツ施設の経営の難しさも物語る。(森本智之)

◆イベントは減り、命名権にも応募がない…

 札幌ドームが6月下旬に行った決算発表。日ハムが本拠地としていた04~22年度は年間のイベント開催日数はおおむね120日を超えていたが、23年度は前期比26日減の98日。売上高は過去最低の12億7100万円まで落ち込んだ。赤字幅も当初想定していた2億9400万円を大幅に超えた。

6億円超の赤字となった札幌市の札幌ドーム

 同社はプロ野球の試合に代え、コンサートなどイベントの誘致を模索したがうまくいかず、スタジアムの命名権販売にも応募がなかった。同社の広報担当者は「土日の利用は割とあるが平日が課題になっている。高校スポーツなどアマチュアを含めて市民、道民の利用を増やし、今期は黒字化を目指す」とする。

◆「家賃10億円」の店子が出て行った

 これに対し、北海道大公共政策大学院の石井吉春客員教授(地域政策)は「札幌ドームの経営がファイターズに大きく依存していたことが分かった。年間70試合、観客200万人をカバーできる埋め草は残念ながら道内で他に見つからない。黒字化は無理だ」と手厳しい。  広告代理店関係者も「日ハムが退いたことで広告も減った。命名権の希望者が現れないのもそのためだ」と話す。札幌ドームは札幌市の所有で、球団は年間10億円以上の賃料を払ってきた。だが、店子(たなこ)のため利用上の制約が球団経営の足かせになっていたといい、16年に自前の新球場の建設構想が表面化。23年に「エスコンフィールド北海道」(北広島市)に移転した。

◆札幌市は「黒字化できる」と対応を先送り

ファイターズの本拠地になったエスコンフィールド北海道

 札幌ドームはイベント利用に活路を見いだそうとしている。しかし、石井氏が全国のドーム球場のコンサート利用を調査したところ、コロナ禍前の段階で、東京、大阪が年40~50回、名古屋、福岡が30回程度だったのに対し、札幌は15回程度にとどまった。「札幌ではもともと商業的な需要が大きくはない。移転が決まった段階でこうなることは見えていたが、札幌市は黒字化できると対応を先送りしてきた」と指摘する。  6億円超えの赤字はひとまず内部留保を取り崩すことで対応する。だが、今後も赤字がかさめば税金で補塡(ほてん)することになるのではないか。札幌市スポーツ局の担当者は「5年間の指定管理者の契約が終わる27年度末までは、契約上税金の補塡はしない」とするが、それ以後は「未定」だ。

◆50年間どう稼ぐか、造る前に考えないと

 大規模スポーツ施設の経営は難しいのか。スポーツ庁幹部を務めた元文部科学省の官僚は「スポーツしか使わなければほぼ赤字になる。税金での補塡を避けるためには、スポーツで利用しない日にコンサートなど収益性の高いイベントをどれくらい開けるかが鍵。だが、天然芝のグラウンドではイベントを開きすぎると芝生が傷むし、地方ではそもそもイベント需要自体が小さい。収支の改善は全国の自治体所有施設の課題だ」と指摘する。

国立競技場

 プロ野球ソフトバンクの元取締役の小林至・桜美林大教授は「スタジアムを造ってから50年間、どうやってお金を稼いでいくか事前に検討することが重要。きちんと対応すれば黒字化は難しくないが、公共施設の場合はほとんど検討されていない」と事前の計画の重要性を指摘し、一例として国立競技場をあげる。  「スタジアムビジネスでは(富裕層など)全体の2割の客が8割の売り上げを生むが、そうした特定の客に向けたVIPルームやプレミアムシートも不十分。その上、球技専用にすると言っていたのに、陸上のトラックを造り、方向性を見失ってしまった」 

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