大災害で必ず起こる「トイレパニック」 使えない想定できてますか?

西日本豪雨のあと使えなくなったトイレ (画像提供:日本トイレ研究所)

6年前の7月、西日本の広範囲を襲った記録的な大雨・・・。西日本豪雨では交通網の寸断で食料などの物資が一時的に品薄になりましたが、上下水道のインフラ設備も大きな被害を受けたことで、長期間「トイレ」が使えなくなりました。

相次ぐ大地震や集中豪雨など大きな災害が起こると必ずといっていいほど起こるというのが「トイレパニック」です。普段、みなさんは、災害時のトイレの備えをどれくらい考えていますか?何をどう備えればいいのか、身近ながらおろそかになりがちな「災害時のトイレの備え」について、災害時のトイレ事情に詳しいNPO法人日本トイレ研究所の加藤篤代表に抑えておきたいポイントを紹介します。

災害発生後6時間以内 約70%が「トイレに行きたくなる」

石橋真アナウンサー
 生活に欠かせないトイレのお話をお届けします。今この瞬間、トイレが使えなくなったら皆さんはどうしますかね。
廣瀬桃子さん
 確かに考えたことがないかもしれないですよね。その生活の中に当たり前にそのトイレがあるっていう状態で今いるので…。今この瞬間に使えなくなったらって思うと、なんかぞっとしますよね。
 ということで災害時のトイレの備えについて、日本トイレ研究所代表の加藤篤さんにお話を伺います。加藤さんは能登半島地震や2018年の西日本豪雨のときに被災地に行かれたそうですね。トイレに関してはどういう状況でしたか。
NPO法人日本トイレ研究所 加藤篤代表
 ずっとというか、阪神淡路大震災から、災害時のトイレについてずっと取り組んできているんですが、すごく厳しい状況をお伝えすると、阪神淡路大震災から今回の能登半島地震、もちろん西日本豪雨も含めて現場では「トイレパニック」が起きています。
 どういう状態かというと、トイレは大災害が起きたときでも、意外と早く行きたくなります。我々の調査によると、3時間以内に約4割の人。6時間以内までなら、約7割の人がトイレに行きたくなります。
 そのときに水洗トイレは断水で水が出なくなってますし、また土砂とか地盤沈下とかで、排水設備も壊れている可能性がある。でも、それに気づかずに、多くの人が排泄をしてしまうので、便器が満杯になってしまったり、周辺が汚染されたりして、極めて不衛生な状態になりました。

不衛生→トイレを控える→水を控える で命のリスクも

不衛生となったトイレ(阪神大震災)提供:日本トイレ研究所
石橋アナ

 利用したいけど、そういう衛生面の難しさが出てくるから、その後、水を控えるようなことも出てきますよね。
加藤代表
 トイレが不便とか不衛生っていうふうな状態になると、私達って水を飲むのをやめてしまうんですね。それはもう単純にトイレに行く回数を減らすためです。
 でもこの水分を取るのをやめる行為をしてしまうと、エコノミークラス症候群のような、血管に血の塊ができて、それが肺に詰まったりして命を落とすことにも繋がります。
石橋アナ
 能登半島地震は1月でしたけど、これも季節問わず夏であれば、洪水で断水になってトイレが使えなくなって、そこで水を控えるとなると本当に命の問題なりますもんね。
加藤代表
 2018年の西日本豪雨は7月でしたよね。本当に暑かった。もう外に行って、日光を浴びることすらつらいぐらいの暑さで、仮設トイレの中も灼熱の状態だった。ですから夏場も厳しいです。
 逆に能登半島地震は1月1日に起きて、ものすごく寒くて吹雪いていたりしていた。ですから寒いのもきついですし、暑いのも大変。季節に応じてどちらも厳しい状況になる。

なかなか取り上げにくい「トイレの話題」“備える意識”にも影響が

廣瀬さん
 トイレは私達の生活には必要不可欠だけど、対策の優先順位って私達が考える中で、その順位がそんなに高くないと思う。何で優先順位がなかなか上がっていかないんでしょうか?
NPO法人日本トイレ研究所 加藤篤代表
 様々な理由があるが、そのうちの一つとして、食べることはよく日常的に話題にする。今晩は何を食べますか、とか。もしくは食べる姿を共有するので一緒に食べるのですごく話題にしやすいことだと思う。
 でも一方で、排泄っていうのは人に見せるものではないのでどちらかというとタブーでデリケートなテーマなので話題にしないと思う。話題にしないということはいざというときも思いつかない。これを備えなきゃっというように意識しづらいので、結果として抜け落ちてしまっているというのが現状。
石橋アナ
 家族の中でもトイレの話はするけども優先順位は決して高くない。さらに他人の中ではほぼ話すことは、特に災害時などトイレに関してはないかもしれませんね、確かに。
加藤代表
 もっともっと声に出して話すことが大事で、備えを一緒に考えるとか、地元の市町村にリクエストするとか、そういう形で声に出していくってことが大事です。

災害時のトイレへの備え“8つのポイント” 「携帯トイレ」は必須

廣瀬さん
 今、話を聞いていると本当に災害時のトイレについて考えないといけないと感じたが、日頃からの備えとして今、手元に日本トイレ研究所さんが作った備えのチェックリストがあるが、8項目あります。

災害時の備えチェックリスト(日本トイレ研究所まとめ)

①携帯トイレ ②ポリ袋 ③トイレットペーパー ④ウェットティッシュ ⑤手指の消毒液 ⑥照明 ⑦使用済み携帯トイレ保存容器 ⑧その他の備え

加藤代表
 「携帯トイレ」について初めて聞かれる方も多いと思うが、建物の中にある普通の便器に取り付けて使う袋式のトイレのことを携帯トイレと言っています。
廣瀬さん
 水栓が壊れていても、これが使えるっていうことですね。
加藤代表
 外のトイレに行かなくて済む。例えば大雨が降っていたりとか、夜中だと暗かったりするので、女性や子どもが怖かったりすると思います。またエレベーターも止まっているので階段で行かなきゃいけないような時に、自宅のトイレに取り付けて使えるのが携帯トイレです。
石橋アナ
 これは家族の人数によってその必要な枚数であるとかも考えたらいいんですかね。
加藤代表
 計算方法としては1人分で、概ね1日にトイレに行く回数を数えてほしいが、国のガイドラインでは目安は5回。1日5回。あとは何日間に貯めるかってことですが、最低3日分、できれば7日分。ですから5をかけて15回~35回分くらいをイメージしてもらえれば。
石橋アナ
 トイレの備えの一つとして「携帯トイレ」を常備するのが大事だということですね。
加藤代表
マストアイテムです。
廣瀬さん
 例えば家族4人だと、100を超えるような枚数を用意しておいた方がいいということになりますね。
加藤代表
 そうです。そんなにたくさんって思う方もいると思うけど、本当にトイレがないと困る。ですから、少し余分に、困ってる人にあげられるぐらいにしておく方が良いと思います。何日分必要かの目安がなかなか実際わからない。でも最低3日はぜひお願いしたい。

携帯トイレ

廣瀬さん
 続いてポリ袋いかがでしょうか?
加藤代表
 便器は通常水が溜まっている。あの水は下水道の臭いや虫が逆流してこないよう、水で蓋をしている。ですからあの水はそのままにしておかないといけない。そこにいきなり携帯トイレを取り付けてしまうと、交換するときに水がポタポタ垂れてしまう。それを防ぐために45Lぐらいのポリ袋であれば、便器にすっぽりかぶせることができる。まず、ポリ袋で便器を覆ってから便座を下ろして、その上に携帯トイレをつけるのをおすすめしています。
廣瀬さん
 なるほど、これは気がつきませんでした。
加藤代表
 最低1枚、破れたり汚れたりする可能性があるので複数枚あった方が良いです。

廣瀬さん
 続いてトイレットペーパーですがこれはいくつぐらい用意したらいいでしょうか?
加藤代表
 これも難しいんですが、ぜひ一度自分が必要な量を手に取ってみて、伸ばして測ってみてほしい。そうすると、先ほどの5回トイレに行くのであれば、その長さ×5、さらに1ヶ月ぐらいあった方がいいと思うので×30日。すると大体自分の安心して使うために必要な量が出てくる。家庭ごとに使う量ってのは様々ですから、

廣瀬さん
 続いてウェットティッシュですがこれはどういった用途に使うんですか。
加藤代表
 ウェットティッシュとその次の手指の消毒液、これはセットですが断水しているのでトイレの後に手が洗えない。そんなときにウェットティッシュ、もしくはアルコール消毒液、最近で言うとノロウイルスにも対応してアルコール消毒液もあるので、そういったものも工夫しながら備えてほしいと思います。
廣瀬さん
 これはトイレ以外の場面でも使えますもんね。

災害時の“停電” トイレは意外と真っ暗 懐中電灯ではかなりしんどい

NPO法人日本トイレ研究所 加藤篤代表
 災害時は停電します。ですからトイレってご自宅のトイレを見ていただきたいんですけども、窓がない場合もあります。そうすると真っ暗になると思う。そんな中で、先ほどの携帯トイレをうまく使いこなすのは難しくなってしまう。照明は大事。そのとき、懐中電灯を手に持つタイプだと片手がふさがれてしまう。そうすると、作業が例えばズボンを下ろしたりボタンを外したりっていうのが非常に難しくなる。両手がフリーになる壁や床におけるランタンだったり、両手がフリーになるヘッドライトだったり、そういう照明を備えていただきたい。
石橋アナ
 懐中電灯を置けばいいけど置いてもその明かりが一部しか照らされないから全体ではなくなるわけですよね。意外とこれは気づかなかった。
加藤代表
 用途が懐中電灯は見たいところを照らすという役割なのでトイレはどちらかというと空間全体を明るくしてほしいので工夫が要ると思います。

廣瀬さん
 そして使用済み携帯トイレの保存容器も必要なんですね。
加藤代表
 携帯トイレは使った後、市町村の確認は要りますけれども、概ね可燃ゴミになると思う。それはすぐに回収できないはずなので、一定期間、例えばご自宅の庭だったり、ベランダだったり生活空間から少し離したところで、臭いが出ないように保管する必要があります。そのときに蓋付きの容器みたいなものがあると安心。
石橋アナ
 これどうしてもニオイが漏れるとそこの生活がなかなかちょっと深いというかなかなかね、うまく過ごせなくなるケースもありますからね。

日本トイレ研究所ホームページ

廣瀬さん
 そして加藤さん、その他に備えておいた方がいいものってどんなものがありますか。
加藤代表
 何かこれはですね、個人個人、安心して行けるトイレ環境っていうのが大事だと思うんです。ですからその人にとって必要なも。平時の日常から使っていてこれトイレに必要だというものがあれば、それは必ず話し合って置いておいてほしいなと思う。
石橋アナ
 イメージするには例えばどういったものがありますか
加藤代表
 例えば、生理用品もそうですし、尿取りパッドとかですね、さらにはそういったものを捨てるボックスであったり、何か1人1人のなかなか人には通常伝えてないかもしれませんが、欠かせないアイテムってあると思う。はい。そこを少し先ほどの携帯トイレと同じように多めに備えながら、平時は少しずつ使っていくっていうローリングストックの考え方も大事だと思います
廣瀬さん
 その使うものとそれをその処理するまで保管しておくっていうのをセットで考えておくといいですね。はい。

石橋アナ
 その他にトイレの備えとしてこれはぜひ知っておいて欲しいなっていうことはありますか。
加藤代表
 大事なのって家族で話し合うことだと思うんですよ。はい意外と家族といえども、例えば子供が両親が、おじいちゃんおばあちゃんがトイレに何を必要としているか、何を大切にしているかって話し合わないですよねこういうのを知っておくと、すごくそれにケアできる。ということがわかると思うんです。はい。すごく暗いのが怖いとか、うんもう臭い対策はもう絶対に必要とかですね。潔癖症なので、もう本当に便座を常に拭けるようなアイテムが必要これって何かそんなことって思うかもしれないんですが、はい、1人1人のその佐々さやかかもしれませんが、そんな大切さが私は尊厳だと思っているので、そこをみんなで助け合うっていうことが必要だと思ってますね。

NPO法人日本トイレ研究所 加藤篤代表
左:廣瀬桃子さん 右:石橋真アナウンサー

( 2024年6月17日放送 RCCラジオ「えんまん」より)

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