信州を代表する伝統の工芸品、木曽漆器。
漆と「あるもの」をあえて組み合わせたことで、今、海外でも人気の作品があるのをご存知でしょうか。
華やかな模様が描かれた器の数々。
繊細で個性あふれる作品です。
古畑キャスター:
「とっても素敵な作品なんですが、これはどういった作品なんですか?」
小坂玲央社長:
「これはガラスに漆を塗った器になります」
鮮やかさを演出するのに使われているのは、「漆」。
「漆ガラス」と呼ばれるガラスに漆を塗る独自の技術です。
こちらの大きな皿には、職人の手でおよそ300本の線が1ミリの間隔で引かれています。
作品が並ぶのは塩尻市木曽平沢(きそひらさわ)にある「丸嘉小坂(まるよしこさか)漆器店」です。
丸嘉小坂漆器店・小坂智恵さん:
「元々茶色くて透けた状態の樹液、メープルシロップのような色をしている漆の中に顔料を入れて色をつけていきます」
1日に1色ずつしか塗れないため、完成までには何日もの時間がかかるという「漆ガラス」。
開発したのは、先代の社長です。
丸嘉小坂漆器店 小坂玲央社長:
「(これまで)下請け工房だったんですけれども、バブル崩壊後に一気に仕事が無くなってしまって、自分たちでものを作って自分たちでものを販売していかなければ会社がつぶれてしまうなというところになった時に、ガラスに漆を絵付けをしてみようと試してみたことがあったみたいで」
実は、「漆」と「ガラス」は密着しにくく、これまで「異色の組み合わせ」とされてきました。
そんな中、小坂漆器店では今から30年前、県の工業技術総合センターの職員から指導を受け、およそ1年かけて漆とガラスを結びつける技術を開発しました。
しかし、開発した当時、珍しさはあったものの、店の売り上げの中心となるまでには至りませんでした。
小坂玲央社長:
「こちらが木工場になります」
「漆ガラス」の販路を拡大したのが、木工職人でもある先代の息子の小坂玲央社長です。
小坂玲央社長:
「こちらで木工の加工をして、それを塗り場に持って行って、漆塗りをするところまでうちは一貫制作しております」
地元の木材を使い、漆塗りの家具の制作をメインにしてきた小坂漆器店。
漆ガラスを売りだそうと取った戦略が、ブランド化です。
「百色(ひゃくしき)」とネーミングしました。
小坂玲央社長:
「父が作った漆ガラスを見た時に、万華鏡を覗いた時の様な印象に似ているなと感じまして、万華鏡のことを調べてみると、昔は百色(ひゃくいろ)眼鏡と言ったみたいで、ちょっと読み方を変えて『百色』というふうにしました」
ブランド化で個性的なデザインなどが全国的に注目を受け、主力商品は、木工製品から食器などにシフトしていきます。
なんとその人気は海外にまで。
パリで開催された国際見本市にも出店して輸出にも力を入れ、世界9か国に販路を広げました。
また最近は、「漆ガラス」のアクセサリーも展開。
あえて、顔料は使わず、漆の樹液の色を生かします。
小坂玲央社長:
「漆というと漆器ですね、器になった状態でしかご存じないと思うんですけど、漆は漆の木から取れる天然の塗料。液体であったことであった頃の記憶を形にしているデザイン」
急成長をとげ、大きく変ったことがあります。
小坂玲央社長:
「ブランドを知っていただいた若い子たちがうちで働きたいと言ってきてくれたりというところが、すごく変化かなと思います」
担い手の高齢化が進む中、小坂漆器店では20代の職人2人が活躍しています。
入社3年目・霜多大勝(しもたともかつ)さん:
「神経使う仕事だなというのは思いますね。(漆製品を)周知してもらうような動きというのを社長が自らどんどんやっているのが凄いなと思う」
入社6年目・太田寛子(おおたひろこ)さん:
「かなり現代的なものにチャレンジして、色々な方に手にとって頂きやすい商品を作っているなというので惹かれて。漆の良さも劇的に変わるわけではなくて、(漆ガラスは)やってみるとやっぱり伝統的なものを作っているんだなというのが変わらずにある」
店では漆のガラス皿への絵付け体験も行っています。
小坂智恵さん:
「絵筆と全然違うんですよ」
絵具で書くみたいにには?
「描けないですね。それもまた体験していただいて。奥から手前に…そうすると均一な太さのまっすぐな線が描けます」
体験では、好きな色を選んで自由に模様を描くことができますが…
体験する古畑キャスター:
「同じ太さで描き続けることと、そもそも真っすぐ描くのが難しいですね…筆が取られる」
小坂智恵さん:
「そうなんですよ!大切なのは心を折らないことです」
漆を入れた顔料には想像以上の粘り気があるため、思い通りに描くのは至難の業です。
古畑キャスター:
「これで良しとします。どうなるんだろう…」
小坂智恵さん:
「可愛らしくなりそうですよね」
その後の仕上げや乾燥などはお任せして、およそ2週間後に、自宅に作品が届きます。
伝統を守っていくためにも、もっと漆を身近に。
時代の変化に合わせた作品を生み出し続けたいと小坂社長は意気込みます。
小坂社長:
「高級品で扱いづらいという印象だったりとか、10代、20代、下手したら30代の方々も漆器製品が身の周りにあるのは少ないかなと感じているが、少し形を変えることで漆は身の周りに存在できると思っていて、チャレンジし続けることなのかなと思っています」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。