冷房が効きすぎて鳥肌が立ったり、怖い話を聞いて鳥肌がたったり…
いろんなシチュエーションで立つ鳥肌は、どんな理由で現れるのだろうか?
意図的に鳥肌を立てられる人もいるらしい…”鳥肌”研究の第一人者に聞いた。

寒さだけじゃない 鳥肌がたつシチュエーションは様々

ある日の帰り道。
トイレを我慢して急ぎ足で歩いていると、腕には鳥肌がたっていた。

そして、その鳥肌はトイレを済ませると、すっかりなくなっていた...。

「さっきの鳥肌って、なんで立ったんだろう?…本来、寒くて立つものなんじゃないのか?」
「身体を温める効果があったとしても、現代の人間はそこまで毛深くないよなあ…」

ネットで調べてみると、「毛を逆立てることによって体温の低下を防ぐ」「鳥肌は現代の人間にとって意味がないもの」「感動したり驚くと立つ」など、どれもそれらしい説明がされている。

確かに、考えてみれば鳥肌が立つときには色々なシチュエーションがある。

身の毛もよだつ怖い話を聞いた時や、アーティストの生歌を聞いた時。黒板をひっかくあの嫌な音を聞いた時も鳥肌がたつ。

鳥肌って一体、何なんだろうか。

早稲田大学 文学学術院 准教授 片平 建史さん

鳥肌研究の第一人者である早稲田大学 文学学術院の片平建史 准教授(心理学)に聞いてみた。

「寒さから身を守る」という役割は少なくとも、果たしようがない

ーー鳥肌って、そもそもどういう現象なのでしょうか。

皮膚の下に、立毛筋という小さい筋肉がたくさんあり、それが収縮することによって鳥肌が立ちます。

左:鳥肌が立っている状態 右:通常時

その時に、毛穴周辺の皮膚に高さの変化がでます。それによって、ボコボコとした皮膚が出現したように見えるんです。

ーーなるほど。それって、寒さから身を守るということでしょうか。

密集した毛が逆立つと、毛の間に保持された空気の層が厚くなり保温効果が得られますが、人間の身体の毛は細く短いので、このような効果はありません。

それでも、寒いときに立毛筋が縮んで鳥肌が立つのは、毛皮があったころの名残だと考えられます。

ーー鳥肌は現代の人間にとって、あまり意味のない現象ということなんでしょうか。

そうですね。寒さから身を守るという役割は少なくとも、果たしようがないというところだと思います。

「寒さ」以外の役割は?

ーー「寒さ」に関して、意味のない現象だということはわかりましたが、怖い話や生歌を聞いた時にたつ鳥肌は何なのでしょうか?

「感動して鳥肌が立つ」などの働きに関して、実は理由がよくわかっていないんです。ただ、毛を立てる以外の働きがあるのではないかと考えています。

ーー毛を立てる以外の働き…?

元々、寒冷刺激に対する反応だった鳥肌は、恐怖や感動を経験した時にも似たような仕組みを一部使う事で、鳥肌が立つようになったのかもしれません。

鳥肌が立つことと、怖さや感動などの感情が起きることが、人間の脳の中でどう結びついているのか。仕組みを解明することで、感動とはどのような反応なのかを明らかにすることができるかもしれません。

鳥肌を自力で立てることができる人がいるらしい!?

片平准教授は鳥肌の解明には「時間がかかる」といいます。

鳥肌が立っているときの脳の活動を調べるには、MRIのような機械で検査する方法などがあります。ただ、慣れない環境だと鳥肌は立ちにくく、データを集めるのは膨大な時間がかかるという事です。

そこで、片平准教授は「意図的に鳥肌を立たせることができる人」を集め、鳥肌が立つ時、脳の中がどう動いているのかを研究しています。

鳥肌は本来、自身でコントロールすることができない生理反応ですが、これまでの研究で、意図的に鳥肌を立てられる人が人口の約0.5%存在することが分かっていて、実は、片平准教授もその一人だということです。

ーーどうやって鳥肌を立たせるんですか…?

言葉では説明しにくいのですが、首をすくめるみたいな感じですね。首の後ろとか背中とかに意識を集中させたりする人も多いです。ゾゾゾという感覚があって、鳥肌を呼び込めるような…どこにどう働きかけているかは表現できないんですけども…

片平准教授が実際に鳥肌立てている様子

ーーどの部分に立たせている人が多いですか?

腕ですね。力を入れる感じの人もいますし、身体を動かした方が立てやすいという方もいます。

鳥肌からわかるかもしれない 未来のこと

意図的に鳥肌を立てられる人を集めて、どんなことを解明したいのでしょうか。
改めて、片平准教授にききました。

ハーバード大学の研究では、立毛の仕組みが毛の活性化に関わる可能性が指摘されていたり、他の研究では皮膚の構成要素として立毛筋が重要な可能性もあるともされていて、立毛筋が持つ色々な働きが解き明かされてきています。

まだ実現はしていませんが、意図的に鳥肌を立てる能力はこうした現象を研究することに役立てられるかもしれません。

ーー“意図的に立てられる鳥肌”のメカニズムを解明できると、具体的にどのように私たちの生活に影響するのでしょうか。

心理学者としては、鳥肌の研究によって人の心の働きを探求できるのではないかと言う点に着目しています。

確かに、鳥肌そのものはかつての機能を失った名残としての反応なのかもしれません。しかし、未だに恐怖や感動で鳥肌が立つということは、こうした強い感情が生じるメカニズムと鳥肌との間の関係が、今でも現役バリバリで私たちの中で機能しているということです。

そうだとすると、鳥肌の仕組みを調べることは、感動のような私たちにとって大切な心の働きを解明するための、言わば「覗き窓」になってくれるのかもしれません。そうした期待を持って研究を続けていています。

自ら鳥肌を立たせ、鳥肌を研究している片平准教授に感服の鳥肌が立った。
鳥肌は、私たちの知りえない役割を果たしているのかもしれない。

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片平建史
早稲田大学 文学学術院 准教授

音楽心理学を出発点として、感性の心理学、感情心理学、社会心理学などに関心を広げる。感性工学領域の研究に従事するかたわら、情動性立毛、フロー体験といった研究もしている。

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