ここ10年は1日2軒のペースで書店が閉店しています。奈良県は特に深刻で、書店がない自治体が51.3%に上ると言われています。そうした中、ユニークな取り組みで“本との新たな出会い”を提案する書店もあります。

子どもと本が大好きな夫婦が営む“町の書店”

 子どもたちでにぎわう、1軒の本屋さん。来年で50周年を迎える、奈良市の「新風堂書店」です。店には絵本や児童書などの子どもに関する本が多く並びます。
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 店を切り盛りするのは2代目店主の中田純さん(76)と妻の睦子さん(76)。2人とも子どもと本が大好きです。
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 (新風堂書店・店主 中田純さん)「うちはポップを置き始めると、きりがないくらいおすすめがあるわけよ。この本は4年生にぴったりの本です、と。この本はすごくファンの多い本でね。そういうことをいちいち書き始めたらきりがないくらいある」

子ども一人ひとりにイチオシ本を選ぶ「本を好きになる過程が見えて楽しい」

 そんな新風堂書店だからこそできる、ユニークな取り組みがあります。毎月、一人ひとりの子どもに合わせたおすすめの本を選んでくれるサービス「パーソナルブッククラブ」です。

 (お客さんに話す睦子さん)「この本はいっぱい動物が出てくるから、そういうのがすごく好きになったら、こういう本を付け加えると。この本は動物のおしりばっかりが出てくる。そうするとまたこの本も楽しめる」
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 (サービスを1年半利用するお客さん)「毎回ドンピシャで、いま色に興味があるなと思ったら、色の本を選んでくれる。こちらからお願いしているわけではないんですけど、今月なんだろうって来てみたら、興味のある本を選んでいただけている感じで」
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 30年ほど前に近所のお客さんから孫にプレゼントする本を選んでほしいと頼まれ始めたサービス。いまでは、会員は260人にまで増えました(※新規会員は原則受け入れ休止)。中には北海道の苫小牧市まで本を送っている会員もいます。選書を担当するのは睦子さん。

 (中田睦子さん)「もちろん私がいいと思う本を選ぶわけですけど、その子の状況というのを考えます。何かの物事がちょっと考えが深まったり、知識が広がったりということもすごく意識していますよ」
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 それでも、一人ひとりに合う本を選ぶのは至難の業。子どもの特徴やマイブームが書かれたカルテを見ながら作業を進めます。毎月30冊以上の本を読んだ上で、いま、その子に合うイチオシの本を選ぶのです。

 (中田睦子さん)「全然本に関心なかった子が本が好きになっていく過程が、5年とか10年とかやると見えるわけじゃないですか。それがね、すごく楽しい」

書店の減少は「本と出会う」文化の廃れ

 本との出会いを大切にするからこそ愛される町の書店。しかし今、全国的に書店が減少しています。特に奈良県では半分以上の市町村で、書店がない無書店自治体が51.3%と多くなっているのです(※古書店・ブックカフェなどを除く 出版文化産業振興財団(JPIC)調べ)。奈良の書店事情に詳しい専門家は奈良特有の事情があるといいます。
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 (奈良県書店商業組合 林田芳幸理事長)「奈良県の書店はご家族で経営されているところが多くて、そこでの柱は教科書の販売となっています。生徒数の減少により、学校の統廃合が行われることによって、その学校に教科書を卸せなくなり、書店の経営が厳しくなったと」

 しかし、問題はそれだけではありません。奈良市内で書店について聞くと…

 (奈良県民)「どこに住んでいるかによると思うんですけど、全然不便に感じたことはないです」
 (奈良県民)「書店が少ないわけではないと感じます。近所にもあるので、全然そこは十分かなと思います」

 町の書店が減っている実感がない人が多く、“本屋さんで本と出会う”という文化が廃れているのです。

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