性的少数者(LGBTQ)への理解増進法は23日で施行1年を迎えた。しかし、政府や自治体が具体的な施策をつくるための土台となる基本計画は、策定時期のめどさえ立っていない。法律を所管する内閣府が、施策に消極的な保守層に配慮し、慎重を期しているとみられる。具体的な方針や目標が見通せず、自治体担当者らは戸惑いの声を上げる。(奥野斐)

◆有識者会議を設けるかどうかすら「未定」

 「基本計画の策定作業を急いでほしい。自治体から早く示して、という声もたくさん寄せられている」

内閣府の担当者らを前に基本計画の早期策定を求める「LGBTに関する課題を考える議員連盟」会長の岩屋毅元防衛相(中)=東京・永田町で

 10日にあった超党派国会議員の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」総会。会長の岩屋毅元防衛相が、内閣府など関係省庁の担当者を前に、語気を強めた。  理解増進法は、政府に基本計画の策定や年1回の施策の実施状況の公表を義務付けた。国や自治体、企業に環境整備などを促す「理念法」で、具体的な方針や目標は基本計画に盛り込まれる。  ところが、基本計画の内容を検討する有識者会議を設けるかどうかすら、現時点で未定という。このため21日には、超党派議連の役員が林芳正官房長官と面会。基本計画の早期策定を含む要望を申し入れた。

◆「正直、何をやっていいか分からない」と自治体職員

 なぜ、時間がかかっているのか。内閣府の魚井宏泰・政策統括官付参事官は取材に「さまざまな意見がある分野。国会審議でも当事者や関係者の声を丁寧に聞きながら、検討するよう意見があった。政府として知見を一つ一つ積み重ねている段階」と説明する。  この1年では、関係省庁の連絡会議を計5回開き、性別違和の診療に当たる医師や、性の多様性に関する調査研究に取り組む研究者の意見を聴取。理解増進法に関するQ&A作成やリーフレットの公表などの周知啓発にとどまった。

性的少数者への理解増進法について解説する説明会で話を聞く自治体職員ら=東京都内で

 国の姿勢がはっきりしないこともあり、当事者団体「LGBT法連合会」(東京)は今月、理解増進法の規定や政府の動きを解説する説明会を都内で開催。関東近郊の自治体から、人権や男女共同参画部門の職員ら約40人が参加した。  「正直、何をやっていいか分からない。議会や区民からの問い合わせに備え、やるべきことを決めなければ」。都内のある区の男女共同参画担当者は焦りを隠さなかった。一方で、住民や職場向けの対応指針を独自につくっている自治体の事例の紹介もあり「自治体でどこまでやっていいか迷っていた。各地の事例が参考になった」と話す職員もいた。

◆ハードルは「注目度」と「国民的なコンセンサス」

 横浜国立大の板垣勝彦教授(行政法)は「通常は、法律制定後1年ほどで基本計画も策定される。だが、理解増進法は注目も高く、国民的なコンセンサス(合意)が十分に取れていないなど計画策定へのハードルがあり、時間がかかっているのだろう」と推測。「基本計画に従って予算が付き、国から補助金などが交付される。自治体が具体的な施策をなかなか打ち出せないことも考えられる」と指摘した。

 性的少数者(LGBTQ)への理解増進法 正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。国や自治体などにLGBTQに関する理解を広げるための取り組みを求め、性の多様性に寛容な社会の実現を目指す。国や自治体の役割、企業や学校の努力義務などを定めており、具体的な施策などは規定されていない。



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