6月20日に告示された東京都知事選挙をめぐり、候補者のポスター掲示板に、イヌやネコの写真や動物のイラストのほか、候補者ではない人物など、選挙と関係ないポスターが貼られました。掲示板が“ジャック”されるという事態について、法律的に問題はないのか。元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に聞きました。
◎亀井正貴:弁護士 民事・刑事裁判を多数担当 元大阪地検検事
“寄付すれば自由にポスターが貼れる” ある政治団体の戦略
掲示板に貼られる選挙ポスターの目的について、東京都選挙管理委員会は「候補者の当選を図ることを目的としたもの」としています。掲示板には番号が振られていて、告示日に立候補を届けた順番に貼ることができます。今回、候補者と関係ないポスターは25番から48番の枠に貼られていて、ある政治団体の候補者たちがまとまって並んで届け出たためとみられています。
24人の候補者を擁立したこの政治団体は、“団体に寄付をすると、その24人の掲示板の枠に自由なポスターが貼れる”ということを行っていて、その結果、今回の掲示板ジャックが起きました。寄付額は時期によって変わっていて、5月までは5000円以上、6月からは1万円以上で、6月20日からは2万5000円以上となっています。
もし寄付金が1万円だった場合、掲示板は1万4000か所あるため、1億4000万円のお金が入ってくることになります。一方で、団体は候補者を24人擁立しているため、立候補に必要な供託金を300万円とすると7200万円の出金があります。これを合わせると6800万円プラスとなる計算です。
この政治団体の党首はSNSで「ポスタージャックって誰に迷惑かけてるの?掲示板が都内に1万4000か所もあって無駄だから廃止しよう!って提案してるだけでしょう?」と主張しています。
亀井さんは選挙ポスターの掲示板についてどのように考えているのでしょうか?
(亀井正貴さん)「有権者に対して広報の価値はやっぱりあると思いますから、それなりに意味はあると思うんですよね。一般的に、ポスターの場合、破ると自由妨害罪という重罪に当たるぐらいですから、やはり重要なんですよね。だから、技術的に今後、SNS化していくとか電子化していくとかいろいろ技術的な改正はあり得るかとは思いますが、やはりこのポスターの重要性はなかなかこれを否定するのは難しいんじゃないかなと思いますね」
掲示板の場所は都内に1万4000か所あります。その場所に貼るというのは組織力や資金力も影響してくるかと思いますが?
(亀井正貴さん)「そうですよね。貼ることのマンパワーの問題とか資金の問題とか、確かに不平等性は出てきますが、とはいえ広報の大事さということからすると、やむを得ないかなと思いますね」
掲示板の枠の売買を禁止する規定はない
今回の掲示板ジャックは法律的に問題なのかどうか。公職選挙法では、他の候補者の選挙活動を代わりに行うことや虚偽記載は処罰対象となります。ただ、掲示板の枠の売買を禁止する規定はないため、現状、誰の写真や名前を載せるかは“候補者の自由”ということになるようですね?
(亀井正貴さん)「そうですね。何で規制するかという場合に、例えば刑法で規制する、条例で規制する、それ以外の風適法で規制する。その中で今、問題となっているのは、公職選挙法でどうやって規制するかということなんですね。論点というか局面、領域が違うわけです。その観点からすると、やはり選挙活動の自由とか政治活動の自由ということであれば、ポスターの内容についてチェックを入れるというのはやっぱり問題。ただ、今回の営利性というのはひどいと思いますから、例えば公職選挙法を改正するんだったら、抜本的に技術的なところまで変えてしまう。そうじゃないんだったら、あまり内容には踏み込まずに、営利性を否定させるような。有償性とかを出してくるのであれば、それは罰則で強化して規制していくというふうな、一部の限定した改正が妥当ではないかと思いますね」
東京都選挙管理委員会によりますと、この寄付行為が妥当かどうかは今後の司法の判断に委ねられるということです。
今回の都知事選の選挙ポスターをめぐっては、この他にも問題が挙げられています。1つは、ほぼ全裸の女性ポスターが貼られ、警視庁は候補者本人に都の迷惑防止条例違反になるとして警告。候補者は「合法の範囲内だと思っていた」ということですが、その後、ポスターを撤去しています。また女性専用風俗のポスターも貼られました。警視庁はNHK党の立花孝志党首に対して警告を行い、その後、ポスターは撤去されています。
これ以前の選挙をめぐっては、つばさの党の関係者が“選挙妨害”を繰り返して動画配信をして、表現の自由だと主張していましたが、公職選挙法違反の疑いで逮捕されました。法律の隙間を縫ったような行為が続いているようにも感じますが、こうした動きについて亀井さんはどう見ているのでしょうか?
(亀井正貴さん)「私は候補者の意識というのが下がってきているのではないかなと思うんですよね。政治目的でやる、かつ品位を保ちながらやる、という意識が下がってきているのじゃないかと思います。問題なのは、先ほど申し上げましたように、公職選挙法の改正まで踏み込むかということなんですが、今回の事例では、風適法で適用できていて、つばさの党の件は今の公選法の現行法で対処できているんですね。営利目的の件はなかなか規制できないので、先ほど申しましたような公選法の改正によって、営利性とか有償性とかその辺のところを断ち切るような規制は、私は一応可能性としては考えられるかなと思います」
「外枠だけの規制というのは割と権利侵害が少ない」
今後、今回の掲示板ジャックなどの事例をまねたようなことが発生する可能性もありますが、どのようにしていけばよいと考えますか?
(亀井正貴さん)「選挙は民主主義の根幹なので、国家権力はできるだけ規制しない方がいいんですね。いろいろ批判はあるかもしれないですが、規制しない方がいいんですよ。ですから、公選法に関しては、何か弊害が出てきたときにそれに対処していくというのが一番現実的かなと思いますね」
亀井さんは、『ポスターの内容』までに踏み込むのは難しいが、『営利目的』なら排除できるか、という見解のようですね?
(亀井正貴さん)「営利目的というのは、今回のように売るということですね。ポスターを使って儲けてしまうということですね。“外枠”だけの規制というのは割と権利侵害が少ないんです。中身(ポスターの内容)に入ってしまうと表現の自由に踏み込んでしまう。だから外枠だけだと割と改正もしやすいという面はあると思います」
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