東京都知事選で少子化対策や子育て支援策が活発に議論されている。重要となる教育現場では、教員不足が深刻だ。産育休や病気休職などで教員が学校を離れても、代わりの人材を確保できない。都内の公立小では年度初めの今年4月時点で約20人の欠員が生じるなど、厳しい状況が続く。都教育委員会や現場の先生たちは人材確保だけでなく、負担を減らして離職を防ごうと奔走する。
◆エデュケーション・アシスタントが担任を補佐
午前8時半すぎ、江東区立第三砂町小の1年生の教室で、担任の安藤優主任教諭が児童の出欠を取る。後方ではエデュケーション・アシスタントの増子光世さんが、児童の連絡帳を確認していた。 1時間目は体育。増子さんは体育館へ移る28人の児童に付き添う。動かない子には「本をしまって。行こう!」。担任の安藤教諭と一緒に縄を回して大縄跳び。「せ~の!」と児童の背中を押すと「跳べた!」と笑顔が見えた。児童たちと笑顔でふれあうエデュケーション・アシスタントの増子光世さん(左)=東京都江東区の第三砂町小で(一部画像処理)
4月から週4日、朝からの約8時間、4クラスある1年生の担任業務を補佐する。安藤教諭は「離席する子、トイレに行ったまま帰ってこない子、提出物を出さない子…。こうした子の対応を任せられるので心強い」と語る。◆全公立小配置目指し47億円を予算化も
エデュケーション・アシスタントは都が教員の負担軽減を目的に、2022年度に江戸川区で導入した。23年度に5区市に拡大。本年度から全公立小1268校に1~3年生の担任補佐として配置できるよう、約47億円を予算化した。採用は市区町村の教委が担い、業務内容は学校側が決める。人材が見つからず、配置できていない学校もある。 都教委は本年度、経験者採用枠の設置や、小学校の新規採用教員が先輩に相談できるメンター制度の導入など、教員確保策を拡充した。背景には、小学校での35人学級化などで必要な教員数が増える一方で、病気休職や退職者が後を絶たず、教員不足が常態化している現状がある。 代替教員らを探しやすくするため、昨年7月からは採用情報マッチング支援システムも導入した。都教育庁人事部選考課の石毛朋充課長は「教員を増やす、減らさない、負担軽減が3本柱。さまざまな方法で教員確保と働きやすい職場づくりを進めている」という。◆産休教諭の代替見つからず、自ら副校長と担任兼務
だが、現場の危機感は増している。都内の公立小の男性校長(50)は、教科ごとの担任制を進めて負担を減らすほか、学校ホームページで補助スタッフらを募るなど、確保に努めている。別の学校の副校長だった3年前、産休に入る担任教諭の代替が見つからなかった苦い経験が理由だ。 当時、代替教員として都に登録された「臨時的任用教員」名簿の片っ端から約200件、電話をかけた。定年退職した女性教諭が見つかったが、新型コロナウイルス禍のオンライン授業に対応できず、1カ月ほどで退職。求人に応募してきた40代男性教諭は、面接後に音信不通になった。保護者に説明して3カ月、自分で担任をしながら副校長の仕事をこなした。 都知事選では、教員の負担軽減などを掲げる候補もいる。「待っていても人は来ない。教育の向上のため、人材確保へのアンテナを高くしておかないと」と校長が語る。現場の願いは「子どもの教育に集中できる環境にしてほしい」だ。(奥野斐)教員不足 文部科学省の2021年5月1日時点での調査では、全国の公立小中高校などで計2065人の教員が不足。同省は今年1月にも、各都道府県などに対応強化を要請した。都内の公立校では23年4月時点の欠員が約80人。年度末にかけて増えて、24年1月時点で2倍の約160人に。23年度の新規採用教員3472人のうち、1年以内の退職者は169人(4.9%)と過去10年で最も多い。例年、教員の約1%が精神疾患で休職している。
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