「娘の夢が僕の夢で、娘の幸せが僕の幸せだった」。法廷で被害女性の父親は涙ながらに語った。横浜市鶴見区で当時18歳の女子大学生が元交際相手に殺害された事件。「Eternal Love(永遠の愛)」と同じ刺青を入れていた2人は殺人事件の被害者と加害者になった。男はなぜ女性を殺害したのか。裁判で語られたのは、男の身勝手な思い込みと女性への執着だった。
ドライブレコーダーに残された言葉「もう殺そう。懲役行こっかな」
事件が起きたのは去年6月。横浜市鶴見区のマンションの駐車場で伊藤龍稀被告(23)は冨永紗菜さん(当時18)を包丁で刺し殺害した。
きっかけは2人の別れ話だった。事件の7日前に口論がきっかけで伊藤被告から暴力を振るわれた冨永さん。それまでも暴力を振るわれ、別れては復縁するということを繰り返していたが、この日暴力を受け「完全に別れたいと言った」(証人尋問での父の証言)という。ただ伊藤被告の考えは違った。
弁護士:どのような交際状況だと認識していたか
伊藤被告:無理と思ったが、形式上は付き合っていた
弁護士:どうしたかった?
伊藤被告:よりを戻したかった
その後もSNSなどを通じ執拗に復縁を迫った伊藤被告。事件前日には冨永さんに「やめて」と言われていたアルバイト先の飲食店に押しかけてまで復縁を迫っている。嫌がる冨永さんの声に伊藤被告が耳を傾けることはなく、身勝手な思い込みを続けた。
検察官:SNSで『怖いからやめて バイト先に来るのもやめて』と紗菜さんが送っているが本当に怖がっているとは思わなったのか?
伊藤被告:思わなかったです。そう言うことで龍稀くんが強く出れないと思ってる、とだけ
アルバイト先に押しかけた伊藤被告は冨永さんとその両親と話をしたが、結局冨永さんから「別れたい」と告げられた。
伊藤被告:別れを告げられると思ってなくて本当に驚いた。開いた口がふさがらなかった
この帰り道の車の中で伊藤被告が一人口にした言葉がドライブレコーダーに残されていた。「いや、もう殺そう。懲役行こっかな」
「包丁で脅して戻ってきてもらおうと…」犯行直前まで殺害は「実行しようと思わなかった」
事件当日の朝、伊藤被告は凶器の包丁を量販店で盗むために車を走らせた。
車内のドライブレコーダーには「必ず刺さないと。未遂で終わったら、紗菜がハッピーになるだけ」と殺意を窺わせる言葉が記録されている。
しかし伊藤被告は法廷で「実行しようと思わなかった」と話し、包丁は脅すために使おうと考えていたと明かした。
伊藤被告:普通じゃだめなので包丁で脅して戻ってきてもらおうとした
弁護士:本気でそう思った
伊藤被告:当時は思った
冨永さんの自宅に着いた伊藤被告は返していなかった合鍵を使い自宅に侵入。寝ていた冨永さんを起こし2人で話すために部屋を出た。
このとき冨永さんは母親に伊藤被告が部屋に入ってきたことを伝え、母親は外出していた父親に連絡している。
父親は「警察に連絡するよう伝え家に向かった」というが、「かわいそうだから警察に連絡しないで」という冨永さんの考えを家族は尊重し、警察に連絡しなかった。
だが、「かわいそうだから」と思う冨永さんの気持ちは伊藤被告に届かなかった。
「2人で話せばいけるんじゃ…」と身勝手な思い込み 別れたら「自分には何も残らない」と生まれた殺意
伊藤被告はマンションの外階段で冨永さんに復縁を迫った。だが冨永さんからの答えは「無理だよ」。それでも身勝手な思い込みが勝った。
伊藤被告:やっぱり2人で話せばいけるんじゃと思った
しかし、冨永さんの父親が自宅に戻ってくることもあり、その場での2人の話し合いは終わったという。そこで明確な殺意が生まれた。
伊藤被告:
帰ろうと思って考えてたがこれを逃したら次会えるのかな、もしかしたら会えなくなるって(交際関係が)終わってしまったら自分には何もない。紗菜がいなくなったら何も残らない。
その場を離れた伊藤被告はマンション一階の駐車場で冨永さんを殺害した。
伊藤被告:「紗菜ちゃんごめんね」と伝えて刺した。
法廷では冨永さんの父親と母親がそれぞれ涙ながらに意見を述べた。
冨永さんの父親:紗菜を悪女に仕立て上げうそをついていることに心の底から憎しみを覚える。毎日あの日を思い出し悔しさと悲しみがこみ上げてきます
冨永さんの母親:愛するとは何だと思いますか?私はただ相手の幸せを心から願うことだと思っています。あなたのはただの執着です
伊藤被告は顔を赤くし体を震わせながら聞いていた。
「自分の気持ちばかりを優先させた」判決でも指摘された身勝手さ
6月21日、横浜地裁は伊藤被告に懲役18年を言い渡した。検察側は懲役20年を求刑、弁護側は懲役15年を主張していた。
判決で横浜地裁は殺意について「遅くとも包丁を盗んだ時点では被害者を殺害することも一つの選択肢として想定していた」と指摘。
「別れ話が持ち上がり、もはや復縁が困難になったことでやり場のない思いを抱いたこと自体には理解し得る面はあるものの、被害者を殺害する理由にはおおよそなり得ない」、
「被害者に落ち度はなく、結局のところ被告人は自分の気持ちばかりを優先させたというべきで短絡的な犯行という他ない」と非難した。
これまでの法廷で時に涙を流し、時に体を震わせながら自らの主張を述べていた伊藤被告。判決を聞くとき、背中を丸め裁判長と目をあわせることはなかった。
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