東京都足立区選挙管理委員会で、資格を満たさない委員が就任し、職務を続けている。区議出身者らが多い選管に「外部の目を」と区外の20代を選出したが、本来は区内在住者から選ぶ要件があった。一時は委員の失職で決着すると思われたが、異例の事態は解消されないままとなっている。(井上真典)

◆「3カ月以上その市区町村に住むことが必要」なのに

 「区の住所要件があるとは知らなかった」。区選管の鳥山高章事務局長は、困惑気味に話す。市区町村の首長や議員を選ぶには、3カ月以上その市区町村に住むことが必要。実は、選管委員になるのにも、これと同じ要件が必要だった。

3月4日に発表した選管委員の資格要件に関するおわび=東京都足立区のホームページから

 だが事務局は「国政選挙の選挙権があればよく、居住要件は必要ない」と誤って解釈。大学時代に学生の投票率向上を目指すサークルをつくり、当時は練馬区に住んでいた古野香織さん(28)を委員に推薦しようとした超党派の区議たちに「問題ない」と回答してしまった。

◆他の自治体からの問い合わせを機に発覚

 区選管委員は4人で、区議による投票で選ばれる。昨年12月の投票では、古野さんと元足立区議3人を選出した。ところが、他の自治体からの問い合わせなどをきっかけに事務局が都選管などに確認し、勘違いが発覚。事務局は今年2月、委員会に謝罪し、古野さんの失職手続きを提案した。  これに反発したのが、古野さんを推した超党派の区議たちだ。事務局のかつての見解を基に、失職手続きに反対する要望書を区選管に提出した。最大会派の自民党も「複数の法解釈がある」と追随。このため4月の区選管定例会では「国や都の出方を待つ」との姿勢を維持することになった。

◆「総合的な判断」で続投が決まったが…

 芦川武雄委員長は取材に「私たちは議会で選ばれた。要望書も出ており議会との対立は避けたい。総合的な判断」と古野さん続投の背景を語る。  一方、区選管事務局は「異例の事態」を解消しようと、委員会には失職手続きを進めるよう依頼を続けるという。しかし、本来は就任できない委員に人件費を支出したのは違法として、「今後は住民監査請求が起きる可能性もある」とも鳥山事務局長は話す。   ◇  ◇

◆委員の多くは落選や引退の元区議

 足立区選管事務局によると、1999年以降に選ばれた区選管委員は28人。このうち、20人は元区議が占める。区議会の各会派が、落選や引退した自会派の元区議を推し、そのまま区議による投票で当選する形が多い。  昨年12月に選ばれた古野香織さん以外の3委員は自民、公明、共産の元区議。委員が失職した場合に繰り上がる「補充員」は、公明の元区議だった。こうした委員構成の中で、選管は古野さんを失職させる採決の是非を検討した。

東京都足立区役所

 公明の区議だった芦川武雄委員長は採決に前向きな姿勢を示したが、自民出身の委員が「自民(会派)から要望があり、議決できない」と表明するなどしたため、採決は保留された。  一連の経緯について社団法人「選挙制度実務研究会」の小島勇人理事長は「第三者の意思や意図が加わっているとしたら、足立区選管は独立した機関と言えない」と危惧。区選管は、居住要件を満たさない区議を当選無効とする強い権限もある。しかし、今回の騒動には結論を出せず、小島氏は「選挙を適正に執行できるのか」と疑問を呈する。

◆騒動に巻き込まれた委員は5月から区民に

 一方、古野さんは「若者の投票率がどうやったら上がるか考えることが人生のテーマ。この数カ月は提案したいことが十分できなかったが、委員会の決定は重く受け止める」と続投への強い思いを語る。足立区への理解を深めようと5月下旬、区内に転居したという。(井上真典) 

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