松本市や関東周辺で相次いだ、広域強盗事件で、一連の犯行に関わった疑いが持たれているのが、すでに逮捕されているベトナム国籍の男2人です。
異国の地で、彼らはなぜ、犯行に及んでしまうのか。
その背景にはSNSで繋がるコミュニティと、ある「誘惑」がありました。
群馬県藤岡市の自称内装工・ホアン・フー・ホア容疑者25歳。
群馬県太田市の無職・マイ・ヴァン・シー容疑者23歳。
共にベトナム国籍の2人は、栃木県日光市で強盗事件が発生した4月30日、被害者名義のキャッシュカードを使って、現金40万円を引き出した疑いなどで、これまでに2回逮捕されています。
2人は、4月末から5月にかけ、松本市など、関東周辺の山間地域で発生した一連の強盗事件に、関与した疑いが持たれています。
このほかにもベトナム人による犯罪が発覚しました。
5月、県警に再逮捕された、ベトナム国籍の男5人。
4月に長野市の空き家や住宅に侵入し、現金や貴金属類を盗んだ罪で起訴されました。
5人は能登半島地震の被災地など、5つの県で犯行に及んだとみられます。
なぜベトナム人が、遠く離れた異国の地、日本で犯罪に手を染めてしまうのか。
その背景を探るため、取材班は群馬県に向かいました。
「こんにちは。よろしくお願いします」
群馬県ベトナム人協会の会長を務めるブイ・バン・フイさん。
13年前に技能実習生として来日し、その後、日本で生活しながらベトナム人をサポートしようと、2023年8月に協会を立ち上げました。
フイ会長:
「現状はベトナム人の犯罪者率が多分、圧倒的に一番多くなっている状況だと思うが、自分たちのお父さんお母さんを助けるために日本に来たわけなので、最初から日本に犯罪をしに来ようという考えは全くない」
多くのベトナム人が来日する理由ー。
それは外国人技能実習制度を利用した「出稼ぎ」です。
国際社会の発展への貢献などを掲げ、1993年に始まった技能実習制度。
実習生は、母国より高い日本の賃金に惹かれ、やってきます。
国内の労働力不足を補える日本側のメリットもあり、この30年で技能実習生は大幅に増加。
中でもベトナム人が最も多いのが現状です。
ただ、期間は基本的に3年間。
言葉の壁や、職場の環境、待遇の不満などを理由に失踪し、在留資格を失って不法滞在となる人も後を絶ちません。
その数は年間およそ9000人に上ります。
フイ会長:
「会社の仕事がどうしても嫌とか、違う仕事を探したいケースが多い」
姿を消した技能実習生はどこへ行くのでしょうか。
フイ会長:
「これは完全に誘い出しですね」
「違法な仕事の宣伝紹介ですね」
SNS上に書き込まれるのは、「仕事の勧誘」。
ベトナム人はSNSでの繋がりが強いといい、多くのコミュニティが存在しています。
フイ会長は、これらの甘い勧誘=「誘惑」が不法滞在に繋がるといいます。
フイ会長:
「技能実習生は資格外活動ができない。今の仕事以外はしちゃいけないというルールがあるにも関わらず、(SNS上の)コミュニティの投稿を見ると、どうしても逃げ場を探している人たちが、自分が応募したいし、逃げたいし、それがきっかけで間違った所に行ってしまう」
ケースが目立つという不法滞在になるまでの流れです。
まず、技能実習生が、職場での悩みやトラブルを抱えます。
そんな中、SNS上に別のベトナム人などが投稿する仕事の「勧誘」を見つけます。
別の仕事をすることは法律上、禁止されていますが、技能実習生はこの「誘惑」に負けて、職場を失踪し、別の仕事へ。
その結果、在留資格がはく奪され、不法滞在となってしまいます。
警察によりますと、栃木県の強盗事件への関与が疑われる2人は、共に技能実習として来日し、1人は不法滞在でした。
長野市の侵入窃盗事件に関わった5人も、技能実習生などとして来日し、このうち4人がオーバーステイとなった末、犯行に及んだとされます。
職場に馴染めなかった場合、母国、ベトナムに帰ることはできないのでしょうか?
フイ会長:
「日本へ来るために大体100万円以上借金を背負ってしまう」
「(ベトナムに)戻ったら、(借金を)返済できない。だから帰らないことが多い。不法残留者になって、違うところで働き出すと、生活は上手くいかない。借金に追われて、結局犯罪に手を出してしまうことが多い。万引きだったり、窃盗だったり」
取材の結果、SNSでの「誘惑」から不法滞在となった末、生活に困って犯罪に至るという流れが見えてきました。
さらにSNS上では「ボドイ」という言葉が目を引きます。
フイ会長:
「ボドイというのは兵士という意味。不法滞在グループという意味。技能実習生の正規ルートから脱線した隠語。自由はないという」
不法滞在者同士のコミュニティが存在しているのです。
仕事の紹介のほか、中には違法とされる在留カードの貸出し。
ネット上での食料や生活用品を売り買いする実態も浮かび上がりました。
技能実習生を含む、国内にいる外国人労働者は、2023年、初めて200万人を突破しました。
フイ会長:
「日本人と平等に待遇を出してもらいたい、それが一番」
6月13日、在留資格の「技能実習」を廃止し、新たに、「育成就労」の創設を盛り込んだ法律の改正案が参議院の法務委員会で可決されました。
これまで禁止とされてきた転職が、一定の条件で可能となります。
ただ、法改正が技能実習生の待遇改善に繋がるのかは、見通せません。
外国人が働きやすい環境を整備し、暮らしを守るセーフティネットをどう築いていくかが大きな課題です。
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