ガジュマルの木を模した紙製オブジェが天井まで広がる「狛江の小さな沖縄資料館」を運営する高山正樹さん=いずれも狛江市の同資料館で
◆ここは米軍基地?金網をくぐった先には…
資料館入り口にある米軍基地を模したフェンス
「WARNING 米国区域(施設)・在日米軍 許可無き立ち入り禁止」。小田急線喜多見駅から徒歩5分ほど。住宅街の建物2階の入り口を開けると、金網と貼り紙が目に入る。金網をくぐった先は写真や本で埋め尽くされていた。中央に、沖縄で精霊が宿る木として親しまれるガジュマルを模した手作りの紙製オブジェが置かれている。 「金網は沖縄の在日米軍基地のフェンスをイメージした。資料は何千点あるのか数え切れない」。約90平方メートルの「狛江の小さな沖縄資料館」を運営する高山正樹さん(66)が話す。 高山さんは俳優で、沖縄戦や基地問題などを知った20代の頃から「いつか沖縄をテーマにした芝居をしよう」と資料を集めてきた。狛江市で地図関連会社も経営し、その事務所で沖縄のドキュメンタリー映画上映会や、琉球舞踊の教室などを開いていた。 沖縄の本土復帰50年の2022年夏、地元紙出身の報道カメラマン、大城弘明さんの写真展を事務所で開くことになり、大城さんに「写真を進呈するから沖縄のことを伝えてくれ」と託された。しかし、見学者は少なく、1週間のつもりだった開催期間を延長。写真の脇に説明文や年表、同じ時期に撮られた沖縄のドキュメンタリー映画のリストを貼るなど、展示を充実させた。「続けていれば人が来るかな」と考えた。◆「死ぬまで続けよう」多様な沖縄を伝える
年代別に展示されている沖縄の写真
写真展の開始から半年ほど経た22年末、がんを患っていると分かり、「余命は半年」と宣告された。「それなら死ぬまで展示を続けよう」と思い立った。 展示している写真は、米兵による交通事故を機に起きた1970年のコザ暴動や、小学校の近くを飛ぶ米軍普天間飛行場のヘリなど、戦後の沖縄の歩みを撮った作品が多い。女性の入れ墨「ハジチ」など独特の文化を紹介する写真もある。 若い時から読みふけってきた多数の本も並べた。沖縄戦や基地問題のほか、文学や音楽、食べ物、方言などの本や漫画もそろう。社会問題だけでなく、多様な分野の本を置くのは「沖縄は政治的なスローガンだけでは語れない。等身大の面白さを知ってみませんか」という思いからだという。◆「やりたいことだらけ。もっと資料を増やしたい」
資料館の外に掲示されている手作りの看板
沖縄が題材になった漫画もそろう
余命宣告を受けた後、「もうすぐ死ぬから資料館に来てよ」と冗談めかして知人たちを誘ったが、抗がん剤治療を受けながら「半年」よりも長く生き、資料館の運営を続けている。その存在は知られるようになり、沖縄の地元紙から縮刷版を寄贈された。 「もっと資料も年表も増やしたいし、やりたいことだらけ。お金と時間が足らない。まだ死んでなんかいられない」 資料館は入場無料で不定休。詳しくはX(旧ツイッター)のアカウントで。問い合わせは電話03(3489)2246へ。 ◇ ◇ 太平洋戦争末期の沖縄戦の犠牲者らを悼む「慰霊の日」(23日)を前に、17、18日は首都圏の沖縄の話題をお届けします。慰霊の日 沖縄戦では住民を巻き込んだ激しい地上戦の末、20万人以上が命を落とした。沖縄県は旧日本軍の組織的な戦闘が終わったとされる6月23日を「慰霊の日」と定め、毎年追悼式を行っている。
文・宮本隆康/写真・市川和宏 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。