罪を犯し、刑務所に服役するなどした人たちの社会復帰を支援していた人が刃物で刺され、命を奪われました。その人は20年近くにわたり、人々の立ち直りに力を尽くしていました。

更生支援の旗振り役 容疑者は自らが支援していた人物

自宅で変わり果てた姿で見つかった男性。

新庄博志さん、60歳。「保護司」として、滋賀県で20年近く、犯罪に手を染めた人たちの更生に尽力してきました。

しかし、突然、命を奪われたのです。容疑者は新庄さんが支援していた人物でした。

6月10日、送検された無職・飯塚紘平容疑者(35)。新庄さんを刃物で刺すなどして殺害した疑いが持たれています。

5年前、容疑者が強盗事件で保護観察付きの有罪判決を受けてから担当保護司として立ち直りの支援にあたったのが、新庄さんでした。

同僚は…

新庄さんの同僚保護司
「本当に意欲的な方で頭が下がる。誰に聞いてもらっても同じ答えだと思うが、人望があって恨みを買うような人ではない」

レストランを経営するかたわら、保護司の活動をしていた新庄さん。容疑者の仕事探しにも尽力していました。

更生保護団体の関係者
「新庄さんの方から『いま自分が担当している対象者の仕事先を紹介してもらえないか』と相談を受けた」

罪を犯して保護観察を受けている人と面接を行い、住まいや就職先の相談などにあたる保護司。資格は必要なく、あくまで無報酬のボランティアです。

片や今回、容疑者のものとみられるSNSには、「保護観察とか…全然保護しない」などの、不満を漏らすような投稿も。

保護司の団体によると、保護司が逆恨みされるケースもあるといいます。

新庄さんから支援を受けていた男性は…

それでも罪を犯した人々の更生のため、日々、地道な心遣いを繰り返す保護司。かつて新庄さんから支援を受けていた男性は…

新庄さんから支援を受けていた男性
「『ちゃんとサポートしてあげるから、こっちの世界にこいよ』って、いろいろ言葉をかけてくれた。この人にだったらついていけるのかなって」

18歳の頃に逮捕され、保護観察処分となった男性。このとき、新庄さんと出会ったといいます。

新庄さんから支援を受けていた男性
「当時は心も開いてなかったんですけど、ただ新庄さん、僕のことを否定されなかったので、損得勘定抜きで僕のことを本当に思ってくれていたんだなと感じてきて、期待にこたえないといけないという思いが、人として芽生えるようになって」

新庄さんの仲介によって今の仕事に就き、今年2月まで新庄さんから支援を受けていました。折を見て手紙が届くほか、ジャケットまで贈られたといいます。

新庄さんから支援を受けていた男性
「『これ着てみ』って言われて、ちょうどだったので、『それやるわ』って言われて。たまに新庄さんに見られたときは、『使いこなしてるな』って、すごくうれしい。これが形見になるなんて思っていなかった」

「無報酬」の保護司そのルーツは

そんな新庄さんを襲った今回の事件は、保護司の在り様を巡って、波紋を広げています。

罪をつぐない、再出発しようとする人たちの立ち直りを支える「保護司制度」。その歴史は古く、明治時代の1888年、静岡県内で有志によって始められた活動がきっかけと言われます。

実は民間ボランティアによる、こうした支援制度は世界的にも珍しく、ケニアやフィリピンなどでは、日本を参考にした制度が導入されています。

罪を犯した人の更生を支援する保護司。無償で行われる、その活動を支える思いは、何なのでしょうか…

滋賀県大津市で、保護司の男性が殺害され、支援を受けていた男が逮捕された事件。

新庄さんから、相談に乗ってもらっていた別の男性は、いま改めてこう語ります。

新庄さんから支援を受けていた男性
「自分の居場所は不良社会というか、そっちの世界だと思っていた。 新庄さんとか、保護司って、すごく自分にとって必要な人で、その保護司の立場を超えて、人として尊敬できる方だった」

罪を犯した人をどう受け入れるのか、社会の役割とは…

そんな保護司が犠牲となった事件。

全国保護司連盟の事務局長は…

全国保護司連盟 吉田研一郎 事務局長
「保護司になる方も何か報酬を受けて金銭的な見返りを期待してやるというより、無報酬でやることにやりがいや意義を感じている方が多い。保護観察対象者にとっても、『報酬がなくて自分のためにやってくれている』、それが対象者にとっても感銘を与える、『自分もその気持ちにこたえて頑張っていこう』となる」

保護司による支援の一つ、就労援助の大切さを示すデータがあります。

法務省の資料によると、更生できず、再び刑務所で服役した人のうち、72.5%が再犯時に無職でした。
いざ社会に戻っても「頼れる人がおらず、仕事に就けない」。こうした人々に親身になって相談に乗り、就職などの支援を行う保護司。

一方で、吉田さんは、罪を犯した人の更生が、まだまだ一部の人の善意に任せっきりになっているのではと、その問題点を指摘します。

全国保護司連盟 吉田研一郎 事務局長
「犯罪をした人に対してどうするのか、『それは国がやることじゃないか』『専門家がやることじゃないか』、そういう意識がまだまだ根強い。社会全体の役割という意識までには、なかなかなっていない」

(「サンデーモーニング」2024年6月16日放送より)

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