和歌山県南部に建設中のトンネルでコンクリート内部に空洞や厚さが不足していた問題。原因などを調査していた有識者による調査報告書が先週、公表されました。そこで浮き彫りになったのは、トンネル工事のエキスパートとされていた施工業者の現場所長らによる工事のずさんさとそれを隠ぺいしていた実態でした。

南海トラフ地震など災害時のう回路のはずだったトンネル

問題となっているのは、和歌山県串本町と隣接する那智勝浦町とをつなぐ、全長710mの「八郎山トンネル」。このトンネルは南海トラフ地震などの災害時に、国道のう回道路として地元住民らが避難する際にも活用する重要な道として整備が進められていました。トンネルはおととし(2022年)の9月に完成、引き渡しされ、去年12月に供用が開始の予定でした。

しかし、おととし12月、思わぬ事態が発覚しました。照明の設置工事をしていた際、コンクリート内部に空洞があることがわかりました。また、空洞に加え、コンクリートの厚さが不足している箇所が複数あることも判明、設計上、厚さ約30センチ必要な所が最も薄い所でわずか「3センチ」しかありませんでした。この他にも鋼材が適正な位置からずれているなど、複数の施工不良が発覚しました。

現場所長らは書類改ざん…完成検査も合格させる 検査回数も1/10以下

和歌山県提供資料


 今回の工事は、トンネル工事は和歌山市にある「淺川組」と田辺市の「堀組」の共同事業体が実施していました。施工業者が提出した資料などには本来の設計通りもしくは設計以上のコンクリートの厚みが確保されていると記載されていましたが、その後の調査で現場所長らが書類を改ざんし、虚偽の書面が提出、その後の完成検査などを合格させていたということです。

 一方で、発注者である県も、工事の進捗に応じてなされるべきコンクリートの厚さに関する検査も、本来136回必要でしたが、それを大幅に下回る6回しか行われていませんでした。

“工事のエキスパート”とされた現場所長 不良発覚も「どうすることもできない」部下に丸投げ

コンクリートをはがし中を調べる様子

 今回公表された調査報告書では、施工業者へヒアリングした内容などについても公表されました。そこでは、現場所長は「トンネルの測量や計測管理システムを使ったことがなく、部下に任せきりで、測量結果については把握していなかった」「厚み不足に気づくも、局所的なもので大丈夫と勝手な判断をした」「今更どうすることもできないと思い、作業を継続した」などと言及されていました。

 浅川組によりますと、工事を取り仕切っていたのは、15件以上トンネル工事を担当していた現場所長。経験も豊富で、いわば“敏腕社員”とされ信頼を置かれていたということです。

 しかし、浮き彫りになったのは経験豊富と言うには程遠い実態でした。社内でのヒアリングでは、『覆工コンクリートは、化粧コンクリートのようなもので厚さが足りなくても問題ない』と発言、岩盤などの計測に関しても、レーダーなどを用いるなど客観的な計測を行わずに目視のみで『この山なら崩れないだろう』という判断で工事が進められていたということです。

 また、こうした一連のコンクリートの厚さ不足などに関する施工不良は現場所長から本社へは全く報告がされていませんでした。報告書の中では、現場所長が『本社に報告をしても社内にトンネルの専門家がおらず、現場任せになるので、自ら問題などを収めないといけないと思っていた』などと認識していたということです。

調査報告書では『コンプライアンス意識の低さが根本的原因』

コンクリートがはがされたトンネル内(和歌山県提供)


調査報告書では、今回の施工不良の原因について有識者らは「トンネル施工に関する基礎的知識の欠如に加え、コンプライアンス意識の低さが、深刻な施工不良を発生させた根本的な原因」「社会や公益に対する技術者としての責任を認識していないことも、施工不良の発生原因」などと言及しました。

 また、施工不良に気づいた担当者もいたということですが。「所長の判断は絶対」「所長を超えて内部通報はできない」と考え、所長の決定に従わざるを得ない環境だったということです。今回の調査報告書の公表を受けて、浅川組は「真摯に受け止めています」とのみ言及しました。

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