北陸新幹線の石川県内の全線開業から3か月。

経済効果への期待が高まる中、日増しに過熱しているのが敦賀より西の区間、延伸ルートについての議論です。敦賀から大阪までのルートは政府・与党のプロジェクトチームの計画で福井県小浜市から京都を経由する「小浜・京都ルート」ですでに決まっています。

しかし、この現行ルートをめぐっては様々な問題点が指摘されています。

ひとつは、地下を通すトンネル工事にともない京都府内で生活に欠かせない地下水が枯れてしまう懸念があること。そして、建設費がおよそ2兆1000億円と高額なことが指摘されています。

そこで、再び浮上した形になっているのが「米原ルート」です。「小浜ルート」だと建設費が米原ルートのおよそ3.5倍に上ることもあり、主に京都府内での反発が強く着工の見通しが立たない状況です。コストの面を考慮し再考するべきだという意見が出始めています。

米原ルートは、特に石川県内の沿線自治体や京都府内で再び取りざたされていて、京都を通らずに敦賀から滋賀県の米原駅までをつなぎます。

2つのルートをめぐる議論が再び過熱していますが、一度は立ち消えたこの米原ルート、実現性の高いものなのでしょうか?

5月22日、都内で北陸新幹線の建設促進大会が開かれました。沿線の知事らが集まり毎年開かれる会合ですが、今年はさながら決起集会のような雰囲気に。

福井県・杉本達治知事「日本の将来のために必要不可欠なルートとして小浜京都ルートがあると強く認識している」
稲田朋美衆院議員(自民党・福井1区選出)「小浜ルート一択なんです。心をひとつにしてブレることなく小浜京都そして大阪へとつなげてまいりたい」

壇上へ上がるや否や「小浜・京都ルート」を連呼する出席者たち。

与党のプロジェクトチームで委員長を務める国会議員、そして石川県の馳浩知事も「加勢」します。

西田昌司参院議員(自民党・京都府選出)「先刻から米原ルートなる名前が頻繁に報道されているが、我々与党PTですでに手続き的には小浜京都大阪と正式に決まっていますので、それを蒸し返すような話は断じてあり得ない」
石川県・馳浩知事「私の思いは、杉本福井県知事も同じであろうと思います。我々、沿線のみんなが、京都がこの課題を乗り越えるためにはどうしたらよいか真剣に考える必要がある」

一方この日、石川県加賀市で開かれていたのは南加賀地域の市長らでつくる「オール加賀会議」の総会。米原ルートの再検討を求め全会一致で決議しました。

その中心人物は加賀市の宮元陸市長。促進大会での馳知事の発言について次のような見解を示しました。

加賀市・宮元陸市長「まあ本人の心の中わかりませんけども、“(京都の)課題解決しないと難しいよ”と暗に言っているのではないかと私は思います。あの場じゃ言いにくいんでしょうけど。ようやく敦賀までつながってここから先一気にと思っている状況の中で、なかなか物事が進まないのは、一国民としてこれ以上放置するわけにはいけない」

敦賀以西の着工の見通しが立たない中、再び巻き起こる「米原ルート論」ですが、仮にルートを変えたとしても課題は山積みです。

課題としてまずあげられるのは、整備新幹線の着工5条件の1つでもある「JRの同意」です。今から8年前、現行の小浜・京都ルートを提案したJR西日本は、5月の会見で改めてその立場を明確にしています。

JR西日本・長谷川一明社長「もう違うルートというのは今日時点でない。本来は北陸新幹線は関西までつながってこそ、と米原ルートとおっしゃる方は元々の心として強くて、それがなかなか前に行かないもどかしさがそういう表現になっているのであって、本当は京都から新大阪で早く実現せよという思いは実は一緒なのではないか」

またルートを再検討するうえで気になるのは、滋賀県の立場です。

かつては米原ルートを推進していた滋賀県の三日月大造知事、北陸新幹線の建設促進大会で、「小浜派」であることの立場を鮮明にしました。

滋賀県・三日月大造知事「滋賀県知事として明確に申し上げておきたいことは、私も小浜京都大阪への早期着工と早期開業の思いでありますので…(拍手)」

整備新幹線が建設されると、これに並行する形で運行する在来線の経営はJRにとって重い負担となる場合があります。この負担を軽減するため、沿線すべての都道府県・市町村の同意を得たうえで新幹線開業と同時に経営分離され、その後は自治体と民間が出資する第3セクターが運営していく流れになります。

ただ、滋賀県の三日月知事はJR湖西線の並行在来線化を認めていません。

現行の小浜・京都ルートだと新幹線は滋賀県内を通らないため、いくらJRの負担軽減のためとはいえ、滋賀県が税金を使って湖西線の運営していくのは納得いかないとの考えがあります。

JR西日本出身の三日月知事は、JRの内情もある程度把握したうえで小浜・京都ルートを推していて、米原ルートへの転換を受け入れるかというと難しそうです。

現行ルートに決まった場合、県内を線路が通らない滋賀県は建設費を負担する必要はありません。一方で琵琶湖の西側を通るJR湖西線が「並行在来線」として扱われる可能性もあり、この場合、運賃が上昇して地元利用者の負担が増すおそれもあります。

滋賀県・三日月大造知事「並行在来線。これまで新幹線が通らない県、または大都市近郊区間の在来線が並行在来線に指定された例はありませんので、このことを早期に国に確認してもらいたい」

湖西線が並行在来線となりJRから経営分離されることがないよう、釘を刺します。

現在の湖西線が並行在来線になるのか、JR西日本はあいまいな答えに終始します。

JR西日本・長谷川一明社長「並行在来線の議論についてはどれが該当するかは明確ではない。着工ルートが決まらない状況なので、その次の話は全くの白紙状態」

北陸新幹線について「現行以外のルートはない」としていたものの、並行在来線については慎重な姿勢を見せました。

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