6月20日の告示がせまった都知事選。「掲示板をジャックする」と、選挙ポスターを貼る掲示板をめぐり、疑問の声があがっています。

都知事選「掲示板をジャック」寄付1万円超で「飼い犬の写真も」

日比麻音子キャスター:
政治団体「NHKから国民を守る党」は14日の会見で、東京都知事選では最大24人の候補者を擁立すると発表しました。この立候補者は「選挙ポスター」を掲示場に貼れるようになります。

これについて、団体に寄付をすれば、都内の掲示場約1万4000か所から1か所を選び、寄付者が自由に作成したポスターを掲載可能と呼びかけました。この寄付額は▼5月まで一口5000円でした。▼6月から一口1万円、告示日の▼6月20日から一口3万円という値段になっています。

寄付をすれば、NHK党の候補者が貼ることができるポスターのスペースに、自身のYouTubeのチャンネルやSNSのQRコード、飼っている猫や犬の写真のポスターを貼ることができます、という呼びかけをしています。

“掲示場ジャック”は法律には反さないのか

“掲示場ジャック”に問題はないのか、総務省選挙課担当者に聞きました。

▼ポスターの記載事項について
虚偽事項、また他の候補者の選挙運動に関わる内容、そして、法令に触れる内容を除いて、制限はない(※卑わいなデザインなどは法令に触れる場合も)

▼掲示スペースについて
販売行為、第三者への提供を禁止する規定はない

NHK党の立花孝志党首は「掲示板をジャックして知名度やビジネスを広める今だけのチャンス」と呼びかけ、「費用対効果は抜群」、「斬新な広告をご提案」と話しています。

NHK党の“やり方”について早稲田大学政治経済学部の日野愛郎教授によると、「法律の穴を突いている。これが許されてしまうと、有権者の選挙制度への信頼が揺らいでしまう」と指摘されています。

ルール上、このような行為が禁止されるという規定はないので「想定外」であるということなのでしょうか?

早稲田大学政治経済学部 日野愛郎 教授:
想定外のことだと思います。まず確認をしておきたいのが「選挙には多額の税金が使われている」ということです。

「選挙公営制度」と言われていますが、今回の選挙ポスターや製作されている選挙公報、そして政見放送制度、ビラやはがきに至るまで、全て税金で払われています。

今回のポスターの掲示場は、その税金により“公的に補助されているスペース”なので、「税金によって得られたスペースを転売している」ことにあたります。それは選挙公営制度と言われる制度の趣旨に反していると言わざるを得ないと思います。

産婦人科医 宋美玄さん:
確かに法律には反していないのかもしれませんが、掲示板というのは候補者についての情報を得る大事なものだと思います。それが選挙とは本質の外れたことで論争になるのはすごく残念です。いまは法に触れないとしても、何らかの対策をしてほしいと思います。

「選挙ポスター」の重要性は

日比キャスター:
選挙ポスターの決まりについて見てみましょう。

必須の記載事項は▼ポスターの掲示責任者、▼印刷所の名称および住所です。候補者側が自ら掲示をすること、“掲示するかどうか”は候補者側の自由となっています。

日野愛郎 教授:
他候補の応援や虚偽はしてはいけません。しかし、“基本的には自由”とされているので、通常であれば「当選を目的とした選挙ポスター」が想定されています。その点では想定外だというふうに思います。

日比キャスター:
選挙ポスター掲示場についてSNSでは「選挙ポスターは必ず見る。ポスターから感じられる『気』は参考になる」、「作成にはいくらかかっているのか…選挙ポスターからわかるのは名前だけ」という一方で、「選挙掲示場は全部廃止にした方がいい。税金と労力のムダ」という声もありました。

しかし、有権者にとっては「判断する基準の一つがポスターである」というのは間違いないですよね。

日野愛郎 教授:
仮に、このような制度がないとした場合、自ら候補者ポスターを貼らなければいけない、選挙公報等で政策を訴えなければいけない。これは、広くあまねく有権者に候補者の主張を届けることができるように「健全な言論空間を保障するための制度」になるので、必要な制度だと考えられます。

南波雅俊キャスター:
これまで、選挙ポスターの掲示場に関して“掲示板ジャック”をするという前提がなかったのですが、今回のことで法律やルールなどが変わっていく可能性はあるのでしょうか。

日野愛郎 教授:
少なくとも「販売行為が許されるかどうか」ということは議論されるべきだと思いますし、同一政党から24人の候補者が出るということも異例です。政党政治というのは「一党でしっかりと政策が練られていて、誰かが代表して訴えるべき」と考えられているので、その点においても今後、議論が必要になるのではないかと思います。

日比キャスター:
改めて、「有権者の見る目」というものを必要されていると感じますね。

日野愛郎 教授:
都知事選を行うために50億円程度の税金が投入されているので、掲示場の30のポスター枠に収まらない場合は掲示場を追加することになります。そうなった場合、さらに追加で税金が投入されることになります。

そのことが有権者にとってどう映るのか、有権者がこのように選挙行政のためのお金が使われていることをどう見ていくか、ということも今後重要になってくると思います。

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<プロフィール>
日野愛郎さん
早稲田大学政治経済学部 教授
専門は選挙制度、選挙研究など

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