能登半島地震では、半島の先端付近で絶景を堪能できる宿泊施設「よしが浦温泉 ランプの宿」(石川県珠洲市三崎町)も被災した。営業再開時期は見通せないが、「日本三大パワースポット」として知られる展望台を先行再開するなど、宿泊客受け入れの準備を進めている。海岸隆起で「青の洞窟」が干上がり、奇岩の眺めも一変したが、刀祢秀一社長(72)は「変わってしまった景色を新しい観光名所としてアピールし、能登半島全域を発展させていく」と決意を新たにする。(山脇彩佳)

営業を再開した空中展望台=石川県珠洲市で

◆1579年創業 展望台には毎年20万人

 施設は、珠洲岬(聖域の岬)の海沿いの崖下に位置する1579年創業の老舗。かつては海上から舟でしか行けない秘境のイメージもあり、宿から望む風景が話題で人気に。仙人が修行したとされる「青の洞窟」や景色を見渡せる空中展望台「スカイバード」には、国内外から毎年約20万人の観光客が訪れていた。  地震で建物自体の被害はほとんどなかったが、下水道の配管が損傷し、現在も復旧できていない。従業員67人のうち57人の住居が全壊、半壊などの被害に遭い、戻れない人がほとんどだ。6月に入っても出勤できる従業員は地元に住む4人ほどで、営業再開を目指し、館内の掃除などをし、準備を続けている。  元日、宿は満室で20人が到着。地震発生後、刀弥社長は津波を警戒し、従業員と手分けして必死で全員を高台へ避難させた。外国人観光客も多かったが、英語を話すことができる従業員が誘導。展望台には約200人の観光客もおり、海岸沿いには近づかないよう呼びかけた。  避難の際、潮が引いた海を見て「大きい津波が来る」と危機感を覚えたという。しかし、実際に見えていたのは地盤が約1.4メートル隆起して現れた海底部分で、海に面した宿に津波は来なかった。

◆ハート形の海水だまりが出現

地盤隆起した岩場に現れたハート形の水たまり(中央)=石川県珠洲市で

 地震で、洞窟の奥深くまで水をたたえていた青の洞窟は隆起によって干上がり景観が激変した。海岸沿いでフォトスポットとなっていた獅子岩などは揺れで倒れていた。隆起した岩場部分が帯状に白く浮かび上がった光景が生まれ、以前はなかったハート形の海水だまりも現れた。刀祢社長は「目の前の状況はひどいが、観光地の進化ととらえた。逆に新しい名所になると思った」。海水だまりは「ハートのパワーホール」と名付けた。  「スタッフがそろわないと宿の営業は始められない」と刀祢社長。珠洲商工会議所会頭でもあり「観光客や復旧支援ボランティア、応援派遣されている人などに展望台に来てもらって『能登は良いところだった』と言って帰ってもらえたら。うちだけではなく、能登全体の観光を復活させたい」と語る。


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