5月に出版された直木賞作家・今村翔吾さんの新刊『海を破る者』
「元寇」を題材にした歴史小説で、今村さんが元寇終焉の地、長崎県松浦市の鷹島を実際に取材して書き上げた作品です。
このほど出版記念イベントで長崎を訪れた今村さんに作品に込めた思いや長崎との関わりについて聞きました。
作家 今村翔吾さん(39):
「僕ね、子どもん時に初めて記憶がある2歳半ぐらいの記憶が長崎なんよ。長崎のホテルで起きたら母親と父親がいなくなってて、下でお土産買ってて。寝てるかなと思って。探して廊下に出て、ホテルの女性についていってしまって、あれ、お母さんじゃないっていうのが僕の最初の記憶(笑)」
今村翔吾さんは、京都生まれの39歳。
30歳で小説を書き始めるまではダンスインストラクターでした。
7年前に歴史時代小説家としてデビューするや《名だたる文学賞》を立て続けに受けます。
(2022年1月)
受賞の電話連絡を受ける今村さん:「直木賞受賞しました」
一同:「わー!」
2022年『塞王の楯』で直木賞を受賞すると、人力車で記者会見に向かったり──
受賞後、ワゴン車で4か月かけ、全国47都道府県お礼回りの旅を実行したり──
自ら書店を経営したり──といま注目を集める作家の一人です。
その今村さんの新作が…「海を破る者」です。
元寇の遺物に触れ「人の息づかいみたいなもんをいかに感じ取れるか」
今からおよそ750年前の鎌倉時代に起きた元寇で活躍した伊予の御家人、河野六郎通有が主人公の歴史小説です。
クライマックスの舞台は、元寇終焉の地、長崎県松浦市鷹島。
近くの海底からは蒙古軍の遺物が複数見つかっています。今村さんは執筆にあたり小説家などを取材に招く長崎県の事業を活用し、松浦市を訪れました。
今村さん:
「人の息づかいみたいなもんをいかに感じ取れるかっていうのが小説を書く上ですごい重要なんで。5千人で守ったとか10万人が来たとか、数字でなんかこう捉えがちなんですけど、一人一人のここに生きた人間たちがいたんだなというのを多分、遺物とかから感じられるっていうのがやっぱり大きかったかなって思いますね」
今月7日、長崎で出版記念の講演会が開かれました。
ネタを頂いてるのはACのCM
松浦から来た高校3年生:
「ドキドキしてます。毎回毎回感動するんで(新作も)楽しみです」
佐世保から来た参加者:
「歴史の中にうまくこうフィクションを混ぜて、実際本当にあったかのよう(に描いている)」
参加者:
「時代が離れてても、やっぱ息づかいがわかるというか…きっと本当にこんな思いで、この時代を生きていた人たちがいるんだよねと」
今村さんが執筆の裏側を語ります。
今村さんの講演:
一番僕ね、ネタを頂いてるのはね、AC(公益社団法人ACジャパン)のCMなんですよね。エイシ~ってやつあるでしょ?あれ見てたら、だいたいね、ネタが湧いてくるんですよ。わかりやすいんですよ。この国がいま本当に考えなあかんこととか、この国が国民にやらせたいこととか、何かしらのテーマが結構詰まってるんですよね。
コロナ禍前に流れていたのは《外国人旅行客に親切に対応するよう呼びかけるCM》でした。
今村さん:
これが、流れるっていうことは、どういうことですか?これができてないっていうことでしょ?逆を返せば。
(外国人に)苦手意識を持ってる。じゃぁ日本人の《外国人への一種のアレルギー》というか…なんだろう?って考えると、たぶん日本人が一番最初に外国人へのアレルギーを抱いたんが、元寇の頃なんですよね」
今村さんが特に注目したのは、元寇で河野家の武勇伝として語り継がれている史実「河野の後築地」でした。
連載直後にウクライナ侵攻 “綺麗ごと”ではないか?
今村さん:
(河野家は)石垣の“前”に陣取って戦った。色んな御家人たちは『すごい!勇気ある行動だ!』そういう記録が点々とあるんですけど、これが《勇気を見せる行動じゃなかった》としたら、何が考えられるだろう?って言った時に、パッとそれが思いついた。一番前に行かなあかん理由ってなんだろう?
その“理由”に深くかかわるのが架空の登場人物で、今のウクライナ出身の令那と、高麗(朝鮮)出身の繁です。祖国を《モンゴル帝国》に奪われた彼らとの出会いが、河野家の当主・六郎に変化をもたらします。
元寇を通して描く「世界の中の日本」そして「人と人の繋がり」しかし、奇しくも連載を始めてほどない一昨年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、今村さんは物語の結末に大きく悩んだと言います。
今村さん:
「(小説の中に祖国を奪われた)ウクライナのヒロインみたいなのが出てくるんだけど、現実で同じことがリアルに起こってしまったわけじゃないですか。小説って一個どっか絵空事とは言わないけど“希望”とか“願い”みたいなものもこもってるんだけど、現実にそれより凄惨なこととかが起きてるのを知ってしまった中で(自分の小説は)あまりにも綺麗ごとなんじゃないかっていう葛藤があったね。だから僕、最後、結末変えようかなということも迷ったぐらいです。
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