安定的な皇位継承に向けた国会の議論がようやく動きだした。政府の有識者会議が報告書をまとめてから2年余り。昨年11月に亡くなった細田博之前衆院議長の下では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点やセクハラ疑惑で議論が停滞。額賀福志郎議長は着任間もない昨年末、各党派に意見集約を求めるなど意欲的に取り組んできた。  各党派の見解がおおむね出そろい、5月17日に初会合が開かれたが、終了後の記者会見で、額賀氏の言葉に耳を疑った。「可能な限り、今国会中の意見の取りまとめを目標に力を尽くしていきたい」。会期末まで1カ月余り。十分な議論ができるのだろうか。  皇室を構成するのは現在17人で減少傾向だ。うち未婚者は6人だが、皇室典範では「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と規定しており、現在のままでは皇室活動が先細りすることは避けられない。  会合では▽女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持▽旧宮家の男系男子が養子として皇族に復帰―の有識者会議が示した2案が議論の軸になる。憲法1条は天皇の地位について「主権の存する日本国民の総意に基(もとづ)く」と規定。皇室のあり方を議論するには国民の声を尊重すべきだろう。  党派間の意見の隔たりは大きい。女性皇族の婚姻後に皇室に残る場合の配偶者や子の扱いについて、自民党は「皇族の身分を有することなく、一般国民としての権利・義務を保持し続けることが適切」とする一方、立憲民主党は「皇族の身分を付与する案を含めた検討が必要」と異なる立場を示している。  意見の隔たりは事前に分かったはずで、派閥裏金事件が尾を引くことで国会の日程がタイトになることは想像できたはずだ。2017年6月に成立した天皇退位特例法は同年1月に議論が始まり、国会の見解がまとまるまで2カ月かかった。  各党派の意見が国民の声が十分に反映されたものか疑問も残る。共同通信の世論調査によると、女性皇族も皇位を継ぐ「女性天皇」に「賛成」「どちらかといえば賛成」は計90%に上った。女性皇族が婚姻後も皇室にとどまり、活動を続けられるようにする「女性宮家」の創設について、同計77%だった。  皇室典範は皇位継承者を父親が天皇の血筋を引く「男系男子」に限定していることから、男系男子を前提とした意見をまとめた党派も少なくないが、国民の声と乖離(かいり)した内容と言えまいか。  有識者会議の報告書は「静ひつな環境」での議論を求めており、衆参両院の正副議長は各党派に個別に意見を聞く方針を示しているが、5月に始まった会合の詳細な議事録は現時点で公開されていない。拙速で不透明な議論の結果、数の力で押し切る暴挙は許してはならない。


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