利用者の減少などで、全国の路線バスは9割以上が赤字と、今、崖っぷちに立たされています。こうした中、奮闘しているのが岡山市です。ことし2月、9つのバス会社とともに路線の再編計画をとりまとめました。
自治体がバス路線の維持に積極的に関与 全国的にも注目される「再編計画」
ポイントは2つです。
まず一つ目がこちら。重複路線の集約です。岡山市内には現在、複数のバスが似たような区間を走る、いわゆる重複路線が多く存在しています。これでは収入を奪い合ってしまいます。
そこで、重複路線を1つに集約するなどしてバス会社の収入を改善しよう、というものです。
路線の数を減らしたことで生み出された余力は路線の新設や延伸、増便に回します。例えば、西大寺方面では、現在、両備バスと八晃運輸がバスを走らせていますが、再編後は八晃運輸が撤退し、両備バスだけになっています。
その代わりに八晃運輸はほかと競合しない、新設の路線でバスを走らせます。
岡山市が行ったのはこうした調整だけではありません。
2つ目のポイントです。利用者が少ない路線も守れるようにと岡山市が支援を行うことにました。具体的にはまず、利用者が多い路線を「幹線」、利用者が少ない路線を「支線」と定義しました。
この上でこの「支線」について、岡山市が小型車両を用意し、バス会社に提供することにしました。小型車両にすることで従来の車両よりもガソリン代など運行経費を減らします。さらにその運行経費も最大65%まで負担することにしました。
これは「公設民営方式」と呼ばれる形で、利用者が少ない支線も、持続可能なものにしていこうという狙いです。こうした路線の再編は、一宮、津高、高島など合わせて10の方面で来年度から順次実施される予定です。
しかし、路線の再編はバス会社同士の利害がぶつかり、調整は難しそうですが、どのように岡山市は案をとりまとめたのでしょうか。
9つの会社がひしめく市内のバス路線を再編 利害がぶつかり議論は暗礁へ
中心となって取り組んだ職員にこれまでの経緯や思いを聞きました。
税金を投入しなければならない理由があると熱弁します。
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「これからどんどん高齢化が進んでいって、自家用車が運転出来ない人が増えてくる、そういった中で、移動手段としての公共交通の重要性、必要性はどんどん高まってくる。行政が関わることで(バス路線)を維持していく必要があるんじゃないかなと思いますよね」
思いを語るのは岡山市の公共交通を担当する、交通政策課のトップ、平澤重之さんです。平澤さんはことし2月、9つの会社がひしめく市内のバス路線の再編計画をとりまとめた中心人物です。
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「市役所の職員としての仕事の中では、最も大きな仕事の一つ、重要な仕事の一つになったと思います」
路線再編はどのようにまとめられたのか。発端は6年前でした。
(両備グループ 小嶋光信代表)
「両備バスは全36路線中の18路線、岡電バスは全40路線中の13路線の廃止届を提出致しました」
両備グループが発表した31もの路線の廃止。きっかけは経営の屋台骨である黒字路線の西大寺線に八晃運輸の循環バス「めぐりん」が参入を届け出たことでした。国が参入を許すならほかの赤字路線は維持できないというのが両備の主張でした。
困惑したのは利用者です。
(玉野市在住の女子高校生・当時)
「友達から聞いたんですけど、バスなくなるらしいよって言われて。岡山の学校に出られなくなるから、進路も狭まってくる」
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「それは非常にショッキングな出来事だった。なんでそんなことするんだろうとは思いましたね」
結局、問題提起をしたことで一定の成果はあったとして路線廃止は取り下げられます。しかし、このまま利用客を奪いあう状況が続けば、共倒れの恐れもあると、岡山市は路線再編に向け、協議の場を設けました。しかし…
(両備グループ 小嶋光信代表)
「まずコンセンサス(意見の一致)が出来ていない事業者同士で再編をしろって言ったってそれはとてもじゃないけど難しい」
(八晃運輸 成石敏昭社長)
「『事業者間の協力を』といわれるのであれば、そこらへんから交渉していただきたい」
利害がぶつかり、議論は暗礁に乗り上げます。岡山市が示した再編案も厳しい批判にさらされました。
「われわれは100年前から会社を経営している」「素人の行政に何が分かるのか」
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「非常に悔しいというか、残念な思いだったですよね。その当時は本当に僕らは一生懸命考えてやったんで、なんでオレたちが言っていることが理解してもらえないんだろうという思いはありましたよね。協議会の議論では、常に反対意見をどんどん言われてましたからね。夜目が覚めて、そのことを考えたりすることはよくありましたね」
コロナ禍を乗り越え、信頼関係を築き…協調の機運が醸成されていった
転機が訪れました。新型コロナです。協議が中断する中、岡山市内のバスの利用者は激減しました。
岡山市は運賃無料デーや高齢者らの運賃を半額にするなど、利用促進に向けた策を講じ、バス会社との信頼関係を徐々に築きました。ついに、協議が再開されました。
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「今度は全社の合意を得ることができる計画を作り上げるぞと。やるぞと」
職員は直接バス会社に足を運び、対話を心掛けました。ダイヤや運賃を決める担当者からも細かい聞き取りを行いました。見えてきた各社の事情から妥協点を探り、計画を練り上げたのです。
(岡山市交通政策課 平田晋一さん)
「9社の事業者さんたちと一緒に作り上げていっているような一体感を感じながらやっていました。大変ですけどね」
今年2月…ついに、路線の再編計画は大筋で合意に達しました。バス会社間にも協調の気運が醸成されてゆきました。
(両備グループ 小嶋光信代表)
「今回経営努力がいきる仕組みというものを岡山市が導入することを決めた。これは私は大変に評価していいという風に思っています」
(岡山市理事・交通政策担当 平澤重之さん)
「本当に嬉しかったですよね、よくここまで来たなという思いはありますよね。できるだけ早く実現していく必要があると思っていますので、それについては担当者と一緒に全力で取り組んでいきたいと思っています」
山が動きました。路線再編は来年度からの実施を目指し、協議が続けられます。
(スタジオ)
岡山市は今回の再編で中心部などに公共交通で行ける人口が1万7000人増え、乗り換えずに病院に行ける沿線人口が5万人増えるとしています。
具体的な便数や運賃など決めなければいけない課題も残っていますが、これからに期待したいと思います。
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