近年、三陸沖では海水温の上昇が続いていて取れる魚にも変化がみられるなど水産業に影響が出ています。宮城県の名産、ワカメも例外ではありません。そこで県は、漁業者と協力しながらあるワカメの研究を進めています。それは一体?
成長の早いワカメ
港から船を出すのは、ワカメの養殖を始めて40年、畠山義弘さん(71)です。3月下旬、最盛期を迎えていた収穫作業。肉厚で歯ごたえがある三陸ワカメは生産量、全国一を誇ります。この日、畠山さんが収穫したワカメにはある特徴があります。
ワカメ漁師 畠山義弘さん:
「普通の種(たね)よりは成長は早いと思っています」
畠山さんが収穫した成長の早いワカメは、ある環境下でも収量が見込めるといいます。
宮城県水産技術総合センター、気仙沼水産試験場です。
今野桂吾気象予報士:
「三陸沖の水温が高い状態が続く中、この部屋の中で高水温に強いワカメの研究が行われています」
気温や光の量を調節できる装置の中には、県内外の40から50種類のワカメの精子や卵が保管されています。
高水温に強いワカメを研究
県水産技術総合センター 長田知大技師:
「こちらが階上地区で採取されたワカメに由来する配偶体(精子や卵)、こちらが高水温に耐性あるんじゃないかという風に採られたものです」
センターの研究で、気仙沼市階上地区の水温が高い所に生息していたワカメは高水温に強く、志津川の一部のワカメには大きく育つ特徴があると分かりました。この二つの精子や卵をかけ合わせることで、高水温に強く、成長が早いワカメを作ったのです。
海の環境変化とは
センターがワカメの研究に取り組む背景には近年の気象や海の環境変化があります。三陸ワカメの養殖は今シーズン天候の影響を大きく受けました。
ワカメ漁師 畠山義弘さん:
「この辺(内湾)はみんなしけにやられて今年は2回低気圧に(やられた)」
今年に入ってから、発達した低気圧が日本付近に近づきやすく、県の沿岸部は波の高い日が多くなりました。取材当日も、船を出せるギリギリの波の高さでした。
さらにここ数年、懸念されているのが海水温の上昇です。
ワカメ漁師 畠山義弘さん:
「水温は高くて数年前から芽出しがどうしても遅れて、種をはさんでから芽落ちがすごかった」
ワカメの養殖作業では、水温20度ほどになると芽を挟みこんだロープを海に出します。しかし、水温が高すぎると、ワカメの芽が枯れたり、落ちたりする、芽落ちが発生するのです。水温が下がるまで待つと、その分養殖期間が短くなり、収穫量も増えません。
なぜ、海水温が上昇しているのでしょうか。
黒潮続流が北上
研究者は、三陸の海で、経験したことのないような現象が起きていると指摘します。
東北大学大学院理学研究科 須賀利雄教授
「去年から(海水温が)非常に高くなっている理由は、黒潮続流、この黒潮続流が通常よりも200キロあるいは300キロくらい北上してる、これが最大の原因だと思う」
日本の南を流れる暖かい海流の黒潮。房総半島の東を流れる部分を黒潮続流といいます。黒潮続流は通常、房総半島の東を流れますが、去年から今年にかけては、岩手県沖にまで北上しているため、三陸沖の水温が高くなっているのです。
東北大学大学院理学研究科 須賀利雄教授:
「(三陸沖の)一年間を平均した(海面の)温度でみても、平年との差が3.7度です。これまであまり我々が経験したことのないような現象」
県漁協によると、今年1月から3月までの県内でのワカメの水揚げ量は、およそ2215トンと、去年の同じ期間に比べて、4割程度に留まっています。
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