世界遺産の登録から10年目を迎える、群馬県の「富岡製糸場」
オーバーツーリズムやその後の観光客の減少とどう向き合ってきたのか。
「富岡製糸場」の事例から、世界文化遺産の登録を目指す「佐渡島の金山」の将来を考えます。

新潟市から車でおよそ3時間の群馬県富岡市にある「富岡製糸場」は、日本で最初の本格的な器械製糸工場として、1872年に明治政府が設立。
以降、115年にわたって操業し、国内の産業発展だけでなく世界の絹文化の発展にも大きく貢献したとされています。

富岡製糸場は2014年6月に世界遺産に登録。地元は喜びに沸きました。
初年度の見学者数は前年度の4倍以上となる133万人、その次の2015年度も100万人を超える人が訪れました。

富岡市・富岡製糸場課の大崎渉課長は、首都圏からのアクセスの良さや一般公開が始まって数年しかたっていなかったことが見学者の急増につながったと話します。

【富岡市・富岡製糸場課 大崎渉課長】
「たくさんの人がいきなり来て…。富岡市は観光地じゃなかったので、整備がちょっと遅れていた部分もあった」

富岡市は登録後に備えて周辺の駐車場の整備など受け入れ体制を整えたものの、想定を超える観光客が押し寄せた当時は、まさに“オーバーツーリズム”の状態だったといいます。

【富岡市・富岡製糸場課 大崎渉課長】
「街中を使いたい市民が使いづらい、ごみだとか観光公害的なことも一部あった」

その盛り上がりから10年…

【記者レポート】
「場内を一周してみましたが、平日ということもあってかそれほど人は多くなく、静かに見て回れる印象です」

ピーク時には100万人を超えた見学者は、その後大幅に減少。
ウイルス禍を経て現在は回復傾向にありますが、昨年度の見学者は36万人で、富岡市が目標とした40万人には届きませんでした。

【富岡市・富岡製糸場課 大崎渉課長】
「このままウイルス禍のように少ないと、基金が底をついて、製糸場の運営や整備に支障が出てくれるのではないかと懸念されている」

富岡製糸場の見学料金は大人が1000円。
歴史ある建物であるだけに保存や修復作業が必要で、その費用をまかなうためにも見学者数の確保は欠かせません。そんな中で市が取り組むのは…

【富岡市・富岡製糸場課 大崎渉課長】
「一度見た見学者が『また行ってみたい』と思ってもらえるように、新たな公開範囲を伸ばす」

敷地内には宿舎など100棟以上の建物がありますが、世界遺産に登録された当初、中に入って見学できるのは2つだけでした。
その後、整備が進められ新たに2か所加わり現在は4つの建物の内部が公開されています。

2020年にオープンした国宝「西置繭所」は、修復作業を進めながらもその様子を隠すことなくあえて公開していました。
現在も活用に向けて耐震や補修のための工事を進めている箇所があり、訪れるたびに新しい発見がある世界遺産を目指しています。

【茨城県から】
「3回目くらいですかね」
「西置繭所が修理工事が終わってから来るの始めてだったので非常にきれいになっていて感動しました」
【長野県から】
「新しく中も作っているようなところもあるので進化しているというか、また来たらまた変わったのが見られるのかなと」

さらに、目標はもう一つ…

【富岡市・富岡製糸場課 大崎渉課長】
「世界遺産であり国宝であり、国の重要文化財ではあるが、地元の皆さん、市民に身近に感じて頂くことが一番重要」

そこで富岡市が考えたのが…「国宝の貸し出し」です。
「西置繭所」の中にはイベントホールが入り、講演会やコンサート、さらには結婚式での利用も可能で、“世界の宝”として認められた富岡製糸場を、地域の人にさらに愛してもらいたい考えです。

そんな製糸場は富岡市に住む人にとってどんな存在なのでしょうか?

【かわら屋・坂本悟さん】
「製糸場の見方も変わって『すごかったんじゃん』『こういういわれがあるの』っていうのが割と最近、ここ10年で」

製糸場から歩いて5分ほどの場所で50年以上営業している割烹「かわら屋」。
店主の先祖が製糸場の屋根の瓦職人だったことから名付けらた店名です。

店の2代目・坂本悟さんはこの地で生まれ育ち、世界遺産登録で変わっていく街の様子を見つめてきました。

【かわら屋・坂本悟さん】
「イメージ沸かなかったんですよ、富岡に観光のお客さんが来てくれるっていうのが。ましてや今インバウンドで海外の人も見に来てくれる、まるっきり想像もしていなかったことが起きましたね」
「製糸場近くのお土産屋さんの家賃にしても、ありえないくらい上がって“富岡バブル”って言われて…」

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