2024年夏に世界文化遺産への登録が期待されている『佐渡島の金山』は7月にインドで開かれる世界遺産委員会でその登録の可否が判断される見通しです。
しかし、韓国政府は登録には、「強制労働を含めた全ての歴史を表示する必要がある」と訴えています。
日本政府には、どんな対応が求められるのかを取材しました。

2024年4月、県などが「佐渡島の金山」をPRしようとあるツアーを開催しました。参加したのは世界遺産委員会を構成する21か国のうちベトナムやウクライナ、
メキシコなど11か国の駐日大使16人です。
県はこうした駐日大使を招いた佐渡を巡るツアーを去年から行い、佐渡がもつ魅力発信に力を入れています。

さらに花角知事も、ユネスコ本部があるパリを、去年と今年の2回訪問。
登録の実現に向けて佐渡市出身の知事自らが広告塔となり、委員国の関係者に
「佐渡島の金山」に文化遺産としての価値がどれほどあるかについて語りました。


【花角英世・新潟県知事】
「存在も知らなかった人たちも多いので鉱山によって生まれた文化というものが、こうやって現在でも息づいていることは知っていただけた」

ただ、登録には、大きな課題があります。
韓国政府は、戦時中、「佐渡島の金山」で朝鮮半島出身者の「強制労働」があったとして、世界遺産登録に反発しているのです。
韓国の尹德敏駐日大使が今年4月、花角知事を表敬訪問した際には、
「佐渡島の金山」の登録には強制労働の歴史が分かる全ての歴史を示すよう求めていました。

【韓国の尹德敏駐日大使】
「彼らのいろいろな犠牲もあったと思うんですけど、そこに関しての詳しい案内はないですよね。立派なところもあるんですけれどもマイナスの歴史もあるわけですから、全体の歴史をなんとか表示できるような形でやる必要があるんじゃないかと。我々は反対していないということです。」

明治時代に開削された機械掘り坑道「道遊坑」には、「昭和14年、朝鮮人労働者の日本への動員」などと朝鮮人に関する記述はみられるものの「強制労働」という文字はどこにも書かれていません。花角知事は、尹駐日大使が要望した歴史の表示について以下のように述べています。

【花角英世・新潟県知事】
「そうした趣旨のことを仰ったのは事実ですが、私の方からはその点については、政府間で丁寧に議論していくと承知していますとお答えをしています」

花角知事は「外交問題に関わってくるため国でないと議論はできない」と述べるにとどめました。ただ、今回「佐渡島の金山」で申請している登録範囲は朝鮮人労働者が働いていた近代ではなく、戦国時代から江戸時代の遺産で「強制労働」について日本政府や県は「文化遺産の価値とは別の問題」との認識を示しています。

世界遺産委員会の議長のほか、10年間にわたりユネスコの事務局長を務めた経験があり、世界遺産委員会の議長も務めたことがある松浦晃一郎さんはこの日本側の認識について誰が見ても価値があると分かるようにするべきと指摘します。

【世界遺産委員会・松浦晃一郎元議長】
「(世界遺産は)顕著な世界的な価値を持っていると。誰が見てもこれは世界的な価値があると分かるようなものでなきゃいけない。世界遺産の対象期間ではないから別問題であるという議論は通用しないと思います」

世界遺産に登録されるには原則、世界遺産委員会を構成する21か国の全会一致が必要です。インドで7月に開かれる世界遺産委員会には、韓国も委員国として入っていて、韓国の主張に対して日本がどう対応するかが登録可否の鍵となりそうです。

【世界遺産委員会・松浦晃一郎元議長】
「”佐渡島の金山”の方々がどういう厳しい状況の下で、働かされたかということはしっかり、かつ正直に”説明”する必要があると思います」

この”歴史の表示”をめぐっては、2015年に登録された世界遺産「明治日本の産業革命遺産」でも同様の対立が起きていました。

【韓国外務省・キム・インチョル報道官(当時)】「(日本政府が)約束した内容を履行しなかったことは明らかです」

長崎県の端島の通称・軍艦島など、23の資産からなる「明治日本の産業革命遺産」について韓国政府は、日本の植民地支配時代に、6万人近くの朝鮮半島出身者が23のうち7つの施設で、強制労働をさせられたと主張しました。

日本政府は2015年の世界遺産委員会で強制労働の事実を認め、その後、当時の徴用政策について理解を深めていくため、「産業遺産情報センター」を東京に開設しました。
しかし、一部の展示内容について、韓国政府は強制労働を否定するもので「歴史的な事実を完全に歪曲している」と日本に強く抗議していたのです。

世界遺産委員会はこれを受け、2021年に採択した決議文書に”歴史の表示”に関する記述を新たに加えました。その内容とは「遺跡の価値が認められる期間以外も含む全ての歴史”フルヒストリー”の説明を求める」というものでした。

世界遺産委員会の元議長を務めた松浦晃一郎さんはこの決議文書が「佐渡島の金山」の登録に影響を与えるのではないかと懸念を示しています。

【世界遺産委員会・松浦晃一郎元議長】
「世界遺産委員会も受け入れて、”フルヒストリー”をしっかり説明してほしいということになっているわけで、それに対して日本はしっかり対応する必要があると思います」

「強制労働」をめぐり、日本と異なる主張を訴えてきた韓国。
その韓国では、今年4月に総選挙が行われ、野党が勝利しました。

4年に1度の韓国総選挙で、尹錫悦大統領を支える保守系の与党「国民の力」が革新系の最大野党「共に民主党」に大敗。
尹大統領は戦後最悪とも言われた日韓関係の改善に前向きな姿勢を示していますが、これに対して最大野党「共に民主党」は”対日屈辱外交”とその姿勢を強く批判してきました。

実はこの「共に民主党」の国会議員らは2023年4月に「佐渡島の金山」を視察し、報道陣に対してこう訴えていました。

【「共に民主党」所属議員(当時)】
「強制労働があったことに憤り(強制労働について)記載しない日本政府にも憤りを感じる」

この最大野党の勝利で、日本との外交・つまり「佐渡島の金山」の登録に影響はああるのかについて、朝鮮の歴史を30年以上にわたって研究してきた国際情報大学の吉澤文寿教授は「佐渡島の金山」は政治的にトップの問題に挙がらないのではと考えます。

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