最近、SNSで頻繁に表示されることのある「脱毛」の広告。インフルエンサーの「キッズ脱毛」に関する投稿も見かけます。「子どもに脱毛?早すぎない?」と思いつつ、どんな子どもが脱毛に通っているのか、親の思いは──。話を聞いてみました。

「なんで毛があるの?気持ち悪い」保育園で言われた何気ないひとこと

取材に応じてくれたのは、「キッズ脱毛」メニューがある東京・銀座の「脱毛サロン」に娘・みりちゃん(5歳)を通わせている母親。4歳から通うようになったきっかけは、みりちゃんの突然の行動だったといいます。

「保育園から帰ってきていきなり『これ、使いたい』とパパの髭剃り用の剃刀(かみそり)を持ちだしたんです。

保育園で体毛が濃くないお友達から、『なんでそんなに毛があるの?』『気持ち悪いね』と言われたと話してくれて。

いじめられているということではなくて、子どもらしい純粋な疑問だと思いますけど、言われた娘は結構ぐさっと来ていて、すごく悲しかったみたいです。大人が言われても悲しいですよね」

みりちゃんにとって「体毛」がコンプレックスの種になってしまうと感じ、どうにかしたいと考えた母親。「キッズ脱毛」に子どもが通っている友人に話を聞いたり、ネットで調べたりしてから、みりちゃんに「脱毛」を提案してみることに。

──脱毛を提案したときはどんな反応でしたか。

「『家で自己処理するのは血が出るかもしれなくて怖いから、やってくれるところに行ってみる?』って聞いたら『行く!行く!』って、すぐになりましたね。

友達に言われたということを話してくれる関係性だったので良かったんですけど、親にも話せず悶々と悩んでしまう子もいるだろうなと思います」

──4歳から脱毛に通うことに不安はなかったんですか。

「うちの場合は脱毛に通う不安よりも、毛に悩んでいる不安を取り除きたいという方が大きかったです。大人になったらまた生えてくるかもしれないという説明も聞きましたが、大人になってから生えてきたら生えてきたで良いんです。

とにかく今、娘の感情を良い方に動かして、コンプレックスになる前に不安を取り除きたいという気持ちでした」

この日、母親からの「どうして毛を取りに来たか覚えてない?」という問いに、みりちゃんは「うん」と答えました。

保育園で言われた「気持ち悪い」という言葉や体毛に対する嫌悪感を忘れている様子のみりちゃん。母親にとっては嬉しい返答だったようで、ホッとした表情でした。

なぜ?キッズ脱毛「この2、3年で急激に増えた」

(提供:Dione銀座本店 取材した子どもとは別の子ども 12回通った結果)

脱毛に通う大人は多くなってきていますが、みりちゃんの通うサロン「Dione銀座本店」では、大人だけではなく「キッズ脱毛」の需要も高まっています。

Dione銀座本店 青木安菜さん
「10年以上前からキッズ脱毛を取り扱っていますが、この2~3年で急激にキッズ脱毛のお客様が増えてきた印象です」

──どんなお子さんが通っているんですか。

「3歳から通えるので、3歳から小学生の子が多いです。お母さんが気にして連れて来る子もいれば、保育園や幼稚園、小学校でお友達に体毛について指摘されて来る子もいます。

最初にカウンセリングをするのですが、6歳の子が真夏なのに長袖を着て来たこともありました。毛が減ってきたときに『これで半袖が着られる!』と喜んでくれました」

──保育園や幼稚園、小学校で体毛について指摘される。それが脱毛に通うまでの理由になるんでしょうか。

「昔は脱毛していないお母さんも多かったですが、脱毛経験のある女性がお母さんになることで、子どもが『お母さんは毛がないのになんで私は毛がはえてるの?』と気にするというケースはあるかなと思います」

友達に体毛の濃さを指摘されて、お家に帰るとツルツルの母親。なるほど、子どもからすると「私だけ体毛が濃い」と思ってしまうのかもしれません。

ジョリジョリひげを見て…男の子も「毛が生えるのは嫌」

この脱毛サロンには体毛に悩む男の子も通っています。

8歳の妹が体毛に悩んでキッズ脱毛に通い始めたのをきっかけに、一緒に通い始めたという9歳のしーくん。

母親は将来を考えて、脱毛に通わせるか悩んだといいますが、しーくんが「毛は嫌だ!生えたくない!」と話していたことから、「できる限りコンプレックスは減らしてあげたい」と、脱毛する部位などを相談しつつ通わせることに。

しーくん(9)
「大人になってから毛が生えるのが嫌で脱毛に来ました。毛が減っている実感があって嬉しいです。(施術は)最初は怖いと思っていたんですけど、行ってみたら気持ち良かった」

脱毛は子どもが体毛に悩んだときの選択肢のひとつに

Dione銀座本店では3歳から「キッズ脱毛」ができますが、体毛の悩みを家族に話せなかったり、経済的に通うことが難しかったりする場合はどうしたら良いのでしょうか。

Dione銀座 青木さん
「剃刀や毛抜きは避けて、肌に負担が少ないと言われている電気シェーバーを使ってほしいです。剃刀(かみそり)は肌に細かい傷をつけてしまい、毛抜きでの自己処理は毛の生え変わる周期をぐちゃぐちゃにします。肌の表面にあらわれず皮膚の下に生えてしまう埋もれ毛や肌の乾燥の原因になるためおすすめできません」

──脱毛って必ずやるべきものでしょうか。子どもが悩んでいた場合、まずどうしたら良いですか。

やりたい人がやればいいものだと思います。もし、子どもが体毛に悩んでいたら、『毛はみんなに当たり前に生えているよ』と教えてあげたら良いんじゃないかと思います。

ただ、体毛を無くしたいときの選択肢があるか、ないかで気持ちも違うと思うんです。『一生このままかもしれない』と思って悩むか、選択肢を教えてあげることで『いつか行きたい』と思うのか、『今なくしたい』と思うのかはその子次第だと思います」

中学生の約8割が「体毛」を母親に相談…医師「子どもに寄り添って」

医療脱毛専門院「リゼクリニック」が、今年1月に小学生・中学生の親580名(母親290名・父親290名)を対象に行ったインターネット調査によると、小学生の母親の58.3%、中学生の母親の76.7%が、子どもから体毛について「相談を受けたことがある」と回答しています。今や「脱毛」は子どもにとっても身近な課題になりつつあるのかもしれません。

ただ、この「リゼクリニック」の太田真澄医師は、「キッズ脱毛」については慎重な意見です。

──「キッズ脱毛」のメリット、デメリットを教えてください。

「毛の問題で悩んでいる子ども、そして、その悩みを解決させてあげたいと親が考えたときに、脱毛はその選択肢のひとつであると考えます。脱毛により子どもの精神状態を良くすることに寄与するメリットがあります

脱毛すること自体のデメリットは特にありませんが、現状では長期予後についてのデータは少ないです。医療脱毛ではレーザーを照射、エステ脱毛では光を照射していきますので、痛みや肌トラブル等のリスク、施術期間中の日常生活上の注意などをしっかり理解する必要があります

脱毛施術中は眼球保護のため目隠しをして行うため恐怖を感じてしまうこともあります。また、痛みや皮膚トラブルなどのリスクもあります。本人の意思からではない場合、通う事が非常に苦痛となってしまい心身の負担になりかねません。

──子どものうちに脱毛をすれば、その後は生えなくなるのでしょうか。

「第二次性徴(男子10~13才・女子8~12才頃)前はまだ発育段階にある毛もあるため、脱毛回数が多くなる可能性があることも理解しておいた方がよいでしょう。この後、生えそろってくるであろう毛まで脱毛することはできません」

──キッズ脱毛を検討している親子に伝えたいことはありますか。

「『自分の毛が濃くて悩んでいたから子どもに脱毛をさせたい』『自分が感じたコンプレックスを子どもに感じてほしくない』『子どもの毛が濃くて、イジメられてしまうのではないか心配』など、子どもの意志ではなく“親の意向”で「キッズ脱毛を選択した」といった話を耳にすることがあります。

親が体毛に悩んでいたから、子どもも悩むとは限りません。体毛があっても本人が気にならなければ、脱毛は必要ありません。脱毛するかどうかは、親ではなく、まずは「本人の意思によるものかどうか」ということが最も大切だと考えています。従って、本人の意思が定まっていない中で、親の意向のみで脱毛することはおすすめできません。

また、サロンやクリニックによって様々な考え方や価格設定があるので、すぐに決めずに各公式サイトや口コミなどの意見を聞き、実際に無料カウンセリングなどに訪れてみる。そして、不安な点や気になる点をとことん聞いた上で、最終的にはお子さまご自身が納得できる場所で決められることをおすすめします。

「キッズ脱毛」という言葉を通して、本人の意思を無視した形で、「毛がない方が良い」といった誤った認識を招いたり、「子どもも脱毛することが当たり前」のように普及してほしくないと感じます。大切なお子さまのために、親世代は「正しい認識と知識」をもった上で、お子さまに寄り沿った選択をおこなってほしいと思います」

子どもが体毛について悩んでいた場合、まずは悩みを聞いて寄り添う。「キッズ脱毛」は、悩みを軽くする選択肢のひとつとして覚えておきたいです。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。