<医療の値段・第3部・明細書を見よう>④
 「リフィル処方箋ってあるんですね。ネットで調べて、初めて知りました」  連載1回目に登場した埼玉県の70代の女性。以前に通院していた診療所で、高血圧と脂質異常症の薬を毎月もらいながら、医師の診察は年に1回だけだった。  症状はずっと安定していたといい、仮に間隔をおいた診察で足りるなら、薬の長期処方や、今ならリフィル処方という制度がある。

◆海外では普及、国内は導入経つが2年広がらず

 1枚の処方箋を薬局で最大3回まで使えるもので、たとえば1カ月分の薬を処方されたとき、医師が処方箋の「リフィル可」にチェックを入れ、「3回」と書けば、2回目と3回目は、それを薬局に持って行けば薬を買える。医療費や通院の手間を節約でき、希望する場合は医師に相談する。

健康保険組合連合会のホームページにあるリフィル処方箋の説明

 女性は「でも、薬を3カ月分くださいとは言えなかったでしょうね。言ったら怒られたでしょう」。今は別の病院に3カ月おきに通い、長期処方されている。  厚生労働省がリフィル処方の検討を始めたのは十数年も前のこと。日本医師会(日医)は「患者の経過観察ができなくなる」などと長い間反対し続け、導入は2022年度だった。  海外ではすでに普及しており、日本でも患者の利便性向上と470億円の医療費削減が見込まれた。受診回数が半分や3分の1になれば診療代もその分減る。だが、2年がたった今も医師が活用に消極的で、国民にも周知されず一向に広がっていかない。

◆保険医調査で8割強が反対、賛成ゼロ

 厚労省のデータベースによると、昨年3月の1カ月間に発行されたリフィル処方箋数は、病院全体のわずか0.11%、診療所全体ではさらに少なく0.03%だった。  1日から高血圧・糖尿病・脂質異常症の診療代は、算定要件が見直された「生活習慣病管理料」で請求される。厚労省は今回、「長期処方やリフィル処方箋の発行が可能とする院内掲示を行うこと」を要件に加えた。ポスターや案内で、患者に知ってもらうためだ。

長期処方・リフィル処方箋が可能なことを伝える厚労省作成の院内掲示用ポスター

 首相の岸田文雄も4月のデジタル行財政改革会議で「リフィル処方の普及策を具体化してください」と厚労省に指示したが、医師の拒否反応は強い。  大阪府保険医協会は4月に緊急アンケートを実施。367件の回答のうち院内掲示の要件化に「反対」は308件(84%)で、「賛成」はゼロだった。理由の上位は「責任が取れない」「長期処方で対応可能」「減収につながる」。同協会はさっそく要件削除を厚労省に要望した。

◆どれくらいの医師が患者のメリット向上に努めるか

 大阪府医師会理事で日医副会長の茂松茂人に、反対が多かったことについて聞いてみた。  「リフィルを使うと、やっぱり薬局にばっかり収入がいくように思うんですね。1カ月にいっぺん診て(疾患を)コントロールしていくことが大事やろと。『リフィルはやめていこうね』という意味合いを含めて、医師の裁量権でやっていけたらということです」  生活習慣病管理料を算定する診療所やクリニック、200床未満の病院には、1日から長期処方やリフィル処方の案内がお目見えする。どれくらいの医師が患者のメリット向上に努めるだろうか。(文中敬称略)

 リフィル処方箋 リフィル(refill)は「詰め替え」の意味。一定期間内に繰り返し使える処方箋で、米国が半世紀前に導入し、英国やフランス、カナダ、オーストラリアなどの先進国でも普及している。生活習慣病や花粉症などのアレルギー性鼻炎といった慢性疾患で、医師が「しばらく通院しなくても問題なし」と判断した場合に使われる。

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