人手不足に悩む地域で、産業を支える外国人労働者。「言葉の壁」が立ちはだかっています。

日本有数の馬産地、北海道日高地方の浦河町です。

この「サラブレッドの町」で、いま、ある国の出身者が増えていると言います。

役場を覗いてみると、案内看板には見慣れない文字が…。一体どこの国の言葉なのでしょうか?

「インドのラジャスタン州から来ました」

「インドのビハールから来ています」

「インドの人は?」と問いかけると…牧場のスタッフが何人か手を挙げました。

彼らは、サラブレッドを育成する牧場のスタッフです。なぜ浦河町の牧場にインド人が増えているのでしょうか。

浦河町のスーパーを覗くと、そこには、大量に牛乳を買い込むインド人の姿が…。

(この牛乳はどうしますか?)
インド人
「チャイを作ります」

(いつもこんなに買いますか?)
インド人
「いつもこれくらい買います」

インドでは宗教上の理由などから、肉を食べない人が多く、貴重な栄養源として、牛乳や乳製品が多く売れているといいます。

コープさっぽろ パセオ堺町店 中村拓郎店長
「発注量もそれなりに増やしておりますので、従来住んでいる日本人の方々プラス、来ていただいているインド人の方々の需要が、大きいと捉えています」

どうして、いま浦河町にインド人が増えているのでしょうか。

辻牧場 辻芳明さん
「どんどん日高管内から人材がいなくなって、間違いなく人材がいなくなってきて、ほんとに人手不足だった。それで、なかなか日本の方が思うように(浦河町へ)来てくれない」

背景にあるのは、牧場で働く騎乗員や厩務員の人手不足です。

かつてイギリスの植民地だったインドでは競馬が盛んで、馬の飼育や調教に高い技術を持った人材が多く、浦河町の牧場では、働き手として、インド人を受け入れているのです。

インド人スタッフ ジャグマルさん
「馬の仕事でお金を稼ぐ。給料が全然違う」

インド人スタッフ イザールさん
「お金を稼ぎにきています。少しは自分のために使いますけど、ほとんどはインドにいる家族のために使います」

インド人にとっては、母国で働くよりも給料が高く、人手不足の浦河町と、より条件の良い馬産地で働きたいインド人の要望が、マッチした形です。

10年前には1人もいなかった町内のインド人の数は、現在では300人を超えました。

辻牧場 辻芳明さん
「インドの方たちが来てから8年くらいだと思うんだけれど、時間には非常にきちっとしてる」

(まじめな人が多い?)
「多いですね。当初インド人を使ってたのは浦河だけですからね。それが瞬く間に何百人になって。働いてもらうと真面目で、一生懸命やってくれる」

インド人スタッフ プレイム・シンさん
「日本は従業員に対して、リスペクトを持って対応してくれます。この辻牧場さんもみなさん、親切で丁寧な扱いをしてくれます」

高い技術や知識で、主要産業を支えるインド人は、マチにとっての“救世主”ともいえる存在になっています。

浦河町企画課 若林寛之係長
「一次産業の軽種馬産業の担い手として、(インド人は)大事な人材だと思いますし、日本人と変わらず住民として、どの国の方であれど、実際に浦河町に住んでいる住民の一人なので、町としても大変ありがたいことだと思っています」

インド人が急増する一方で、問題なのが「言葉の壁」です。

浦河町・地域おこし協力隊の稲岡千春さんは、2年前からヒンディー語の通訳として、インド人を支援しています。

東京で経営するインド料理店で、インド人の従業員と会話する中でヒンディー語を習得しました。

浦河町・地域おこし協力隊 稲岡千春さん
「ヒンディー語やっていて、ここで役に立つとは思わなかったですね。みなさんが暮らしやすくなったとか、そういうふうに言っていただけるのは非常に私もやりがいを感じております」

通訳のほかにも、行政の手続きなど生活全般をサポートする稲岡さん。インド人と浦河町民の心の距離を縮めることが必要だと考えます。

浦河町・地域おこし協力隊 稲岡千春さん
「(インドの人には)本当の町民になってもらう。外国人ですからね、今はあくまでも。でも、一緒に働く町民とか、日本人の方も意識を変えていただいて、(インドの人に)話しかけていただいて、そうしていくことによって、たぶん日本語も上手になっていくと思いますし、お互い、よい関係になっていけたらと思います」

 現在、母国インドから“家族滞在ビザ”で、家族を呼び寄せているインド人の世帯が20世帯ほどありますが、配偶者や子どもたちは、やはり日本に来て“言葉の壁”には苦労しているようです。
     
そこで浦河町は、そうしたインド人に、さまざまサポートを行っています。

■【浦河町@インド人へのサポート体制】

・まずは通訳の発掘。若者に働きながら地域と交流してもらう「ふるさとワーキングホリデー」という制度を利用して、 ヒンディー語を話せる人材の発掘に努めている。

・役場にヒンディー語表記の案内看板を設置。
・ヒンディー語の母子手帳を作成。
・ヒンディー語訳の絵本を配布。
・町民から寄贈された絵本にヒンディー語訳をつけて、子どものいる家庭に配布。

そして、母国より給料が高いことにメリットを感じる一方で、浦河町に暮らすインド人の方から、こんな声もあるようです。

■【インド人スタッフの声】
・「仕事がある限り日本にいたいが、いまは円安で大変」
・「(競馬が盛んな)イギリスやアイルランドに行くことも考えることもある」
  
そもそも日本の賃金が上がらないうえに、円安の影響で円の価値も下がっているため、実際に、円安を理由に数人のインド人の方が、浦河町を去って、他の国に移ったそうです。
        
これから人口減少が進む中で、外国人の方々と働く機会もきっと増えていくので、受け入れる側の仕組みづくりが重要になってきます。

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