重度の脳障がいがあった男性が死亡の前日に結んだ“自宅を売却する契約”は無効だとして、遺族が不動産会社側に対して損害賠償を求めていた裁判で、大阪地裁は原告の訴えを認めたうえで、不動産会社に原告へ賠償を命じる判決を言い渡しました。

▼交通事故で脳障害で障がい者手帳の交付受ける…なぜか自宅と別場所で死亡

柳南秀さん(57)の弟・柳発秀さん(当時51)は7年前、交通事故の影響で重い脳の障害を負い認知機能は低下していました。大阪市内で一人暮らしだった発秀さんは、障がい者手帳の交付を受け、就労支援施設に通いながら大阪市内にある自宅でひとり暮らしを続けていましたが、おととしの初めごろには基本的な生活にも支障が出るようになっていたといいます。

南秀さん「事故起こす前は、すごく男気あって後輩からも好かれていた。でも事故後は、性格は丸くなって気が優しい感じでした」

発秀さんはおととし6月、自宅とは別の集合住宅で倒れているのを発見され、その後、病院で亡くなりました。

▼死亡前日に自宅を売却する契約…なのに『口座に入金なし、契約書に署名なし』

なぜ、自宅とは別の場所で亡くなっていたのか。不審に思った遺族らが調べていく中で発秀さんは亡くなる前日に、市内の不動産業者と自宅を売却する契約をしていたことがわかりました。さらに、口座に売却代金の入金履歴はなく、売買契約書に直筆の署名はありませんでした。

(発秀さんの兄 柳南秀さん)
「署名何もないです。住所どころか名前も書いていないので自分では。売買契約を亡くなる前日に行っているわけですから慌てて作ったとしか言いようがない。前日にまともな精神状態であったとは思えないです。メンタル的にも肉体的にも契約すると思いますか?実印が今でも行方不明です。すっからかんの通帳、家も売却されて事件巻き込まれたなと思いました」

▼調べたら…『2200万円の借用書』不動産会社「売却代金は借金の返済に」

不動産会社に自宅を売却した経緯などについてたずねると、会社役員が発秀さんに2200万円を貸していたとする借用書などを示し、『売却代金は発秀さんの借金の返済に充てられた』などと説明したといいます。また、借用書にも直筆の署名はありませんでした。

発秀さんの兄・南秀さんら遺族は、「契約時に発秀さんに内容を理解できる能力はなく契約は無効」として、業者側に対して2150万円の損害賠償を求めて提訴しました。

(南秀さん)「高次脳障害は重要なことの判断能力がない。あの状態で契約は全くできないと思う。表面的には会話のキャッチボールはできてもそこから何か考えて判断するのは1割」

▼遺族『内容理解できる能力なし』業者に賠償求め提訴

発秀さんの兄・南秀さんら遺族は、「契約時に発秀さんに内容を理解できる能力はなく契約は無効」として、業者側に対して2150万円の損害賠償を求めて提訴しました。

▼業者代表「身だしなみも普段着で変わった様子はなかった」

おととしに始まった裁判で業者側は「言葉でのやりとりや理解は十分であった」などとして訴えを退けるよう求めました。

これまでの裁判では不動産業者の代表らが証人として出廷。その中で、業者の代表は裁判長から発秀さんの判断能力について問われると「身だしなみも普段着で変わった様子はなかった。特に違和感などは何も感じなかった」と答えました。

また、契約のやりとりについては次のように証言しました。

裁判長「なぜ契約書には直筆の署名がない?」
代表「書くのがめんどうということだった」
裁判長「売却代金は現金で支払ったのですか?」
代表「現金でのやりとりはない。貸しているものと相殺した」

業者側は「言葉でのやりとりや理解は十分であった」などとして訴えを退けるよう求めました。

▼「敗訴となれば弟は死んでも死にきれない」

柳南秀さん(57)は判決を前に弟の遺影を前で思いを語りました。

(南秀さん)「向こうの主張を聞いてるだけでは怒りしかない。弟にもっと会いに行くべきだった凄く後悔しました悲しくなりました。敗訴となれば弟死んでも死にきれない」

▼大阪地裁は原告の訴え認め『契約は無効』の判決

5月30日に大阪地裁は原告の訴えを認め業者側の契約は無効とする判決を言い渡しました。

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