放牧中の牛を相次いで襲い、北海道東部を震撼(しんかん)させたヒグマ「OSO(オソ)18」。昨年夏に駆除されたが、今月に入り、同じ道東にある日本有数の酪農地、別海町で新たなヒグマによる牛の被害が出た。道庁によると、OSO駆除後に牛の被害が出たのは初めて。第2のOSOが現れたのか—。関係者は警戒を強めている。(宮畑譲)

◆「建物の中に入るのは想定外」子牛12頭が被害

 「小さい牛のいる建物以外をうろついた形跡がない。弱い牛を狙ったようで不気味だ。正直、OSOは人ごとだったが、地元には他にも酪農家がいる。衝撃的な出来事」

駆除されたOSO18=北海道標茶町提供

 現場となった「なかしゅんべつ未来牧場」の友貞義照専務が話す。被害が判明したのは21日朝。近隣の牧場から預かった子牛を育てるハウスで起きた。12頭のうち、胸や尻などをひっかかれ、4頭が死亡していた。けがを負った別の4頭も回復の見込みがないとして処分された。  発見時に死亡していた4頭のうち、複数頭が飼育ケージから引きずり出され、内臓が食べられたような跡があったという。12頭はいずれも生後1〜2週間の子牛だった。友貞さんは「普段からクマはいて、目撃する人もいる。しかし、建物の中に入るのは想定外」と言う。クマが侵入できないようハウスに柵を設け、箱わなも設置された。  足跡は残されていたが、不鮮明で目撃情報もないため、どんな個体かは分かっていない。ただOSOによる被害があった地域とそれほど離れていないこともあり、地元の不安は高まる。  地元警察署は小学生の登下校の見守りを強化するなど警戒に当たる。中標津署は「地元の猟友会や役場が駆除を考えている。その時には安全確保できるよう協力する」とする。

◆人前に姿を現さなかったOSO18とは異なる

 別海町は日本有数の酪農地として知られ、人口約1万4000人の町に10万頭を超える牛が飼育されている。今春には、別海高校が甲子園に初出場し、「史上最東端」と話題になった。  別海町と隣接する標茶町や厚岸町でOSOは被害を出した。2019年から駆除される23年までに66頭もの牛を殺傷。ハンターらが追跡したが、なかなか捕まらず、「忍者」の異名も付けられた。  放牧中の牛を襲ったOSOと違い、今回の個体は建物内に侵入した。北海道ヒグマ対策室によると、建物内の牛の被害が出たのは十数年ぶり。担当者は「OSOは非常に警戒心が高く、人前に姿を現さなかった。今回のほうが人への危険性は高く、問題個体と言える。なるべく早く捕獲したい」と警戒心を隠さない。

◆「シカを食べた後に牛を狙うようになった可能性」

 「道東地域はシカが高密度に生息している状態が続いている。シカを食べたことがないクマはほぼいないだろう。肉を食べる、牛を襲うクマが出やすい状況になっている」。酪農学園大の佐藤喜和教授(野生動物生態学)が指摘する。  さらに「今回の個体は人の生活圏に入ってきており、十分気を付けないといけない」と言い、「クマの餌となる牛の飼料や農作物の管理、電気柵を設置するなど対策を取っておくことが望ましい」と強調する。  道庁の依頼を受け、OSO特別対策班のリーダーを務めた藤本靖さんも「道東では、放置されたシカの死骸を食べるクマが確かにいる。OSOがシカを食べた後に牛を狙うようになった可能性はある」と分析。今回の被害は「どんな個体によるものか分からないので何とも言い難い」としつつ警告する。「道東のクマが置かれている状況は変わらない。一歩間違えば『OSOの再来』になりかねない」 

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