4月に消防士となった新人が、消防学校で訓練漬けの日々を送っています。命を守る現場に出る前のハードな日々をシリーズでお伝えします。

消防学校の訓練内容は男女に差はありません。今回は、厳しい訓練に食らいつく女性消防士の奮闘を追いました。

1100メートルの山道で”限界突破“

各地の消防から集まった新人を徹底的に鍛えあげる熊本県消防学校。入校から1か月が過ぎた5月9日、新人たちが“試練の1日”を迎えました。

新人「ただいまから【俵山踏破訓練】を開始します!」

「俵山(たわらやま)踏破」。それは、入校してからの1か月でどれだけ成長できたかを山道で試す訓練です。

キーワードは…「限界突破」。

阿蘇の噴火で形作られた外輪山の一部である「俵山」の頂上、標高約1100メートルを目指します。新人たちが自らの限界に挑む、長い長い1日の始まりです。

「普段の訓練がきついのでまだ大丈夫」と体力の向上を実感する新人がいる一方で、不安げに歩く女性消防士がいました。

天草広域連合消防本部の青柳美里(あおやぎ みさと)さんです。

入校直後、3.5キロを走る訓練ではトップが11分台でゴールしたのに対し、青柳さんは20分台。周囲との体力差を感じていました。

天草広域連合消防本部 青柳美里さん「体力の自信はないんですけど、班員に迷惑をかけないように、出せる力を目いっぱい出して、食らいついていこうと思っています」

しかし、1時間ほどすると…足のマメが潰れてしまいました。

青柳さん「両かかとを痛めてしまったので、精神的にもきついです。道も今からまた険しくなってくると思うので…」

痛みに耐えながらも、青柳さんには歩みを進める理由がありました。

父の背中を追いかけて

青柳さんが消防士になったのは、同じく消防士として活躍している父・雄二(ゆうじ)さんの影響です。

青柳さん「お父さんへの憧れが一番強くて、消防官をめざしました」

父への憧れを胸に、厳しい訓練にも耐え忍びます。

青柳さん「『消防士になれたよ』と報告したときに家族や周りの人たちがすごく喜んでくれて。その人たちが困っているときに一番最初に駆け付けて、安心させてあげられるような消防官になりたい」

登山開始から約3時間後。青柳さんは、なんとか頂上まで登り切りました。

つかの間の休息を経て…午後からは、下山しながらの【要救助者搬送訓練】です。

辛くても顔には出さない!

この訓練では、要救助者に見立てた人形を担架で運びます。

青柳さんたち
「誰かいませんか」
「もう大丈夫ですよ。 降ろします、1・2・3!」

自らが苦しい状況でも要救助者が不安を感じないよう、表情に出す訳にはいきません。

やがて救助訓練も終了しましたが…訓練はこれで終わりではありませんでした。

帰るまでが訓練

疲労困憊の新人たちを最後に待ち受けていたのは【走破訓練】でした。

記者「俵山での訓練を終えた新人消防士たちは、これから約16キロの道を走って消防学校まで戻ります」
新人たち「全員で完走するぞ!おーっ!!」

俵山のふもとにある物産館「萌の里」から益城町の消防学校まで、班ごとに走ります。大人が普通に歩いても4時間はかかる道のりです。

この時既に、訓練開始から8時間が経過。新人たちは汗だくになり、表情も険しくなっていきます。青柳さんの顔にも苦しさが滲んでいました。それでも…

青柳さんの班員「ラスト!がんばれ」

仲間に背中を支えられながら、青柳さん、限界突破へ。全員でゴールを目指します。

そしてついに、青柳さんの班が消防学校の門をくぐりました。

青柳さんの班長「現在6名、人員・資機材、異常なし。ただいま帰校しました」

完走後、青柳さんは涙ながらに班員への感謝を語りました。

青柳さん「みんなの声かけがなかったらゴールできていなかったと思うので、この班で最後まで走り切れてよかったなと思います」

青柳さんを支えた班員たちは。

青柳さんの班員「最後まで走り切ろうという思いが感じられました。だから自分たちも頑張ろうと思いました」 

また一つ、成長した新人たち。一人前の消防士を目指す日々が続きます。

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