長崎市の中心部に、現存する公営アパートとしては最古の建物が残っているのをご存じでしょうか?1949(昭和24)年に完成した「旧魚の町団地」です。現在は使われていないこの「旧魚の町団地」について、長崎県は、民間事業者のアイデアを取り入れ町の新たなコミュニティ拠点として、再生させようとしています。

建物に足を踏み入れた瞬間、戦後まもない頃の時代にタイムスリップしたような錯覚に陥ります。

長崎市役所の近くにひっそりと建つ築75年の「旧魚の町団地」

建設当時としては、最新鋭だったトイレやキッチンがついた間取りや内装が、そのまま残っていることから《歴史的価値が高い建物》とされています。

配膳窓

長崎県住宅課 牧田さん:
「当時、冷蔵庫とかがなかったので、《戸棚が網戸》になっていて通気性が良くて。食べ物や食器を置けるような形になっている《配膳窓》は、1948年に設計された「48型」の特徴と言われておりまして。お母さんが料理をし、食卓の方へここから差し出す」

「旧魚の町団地」は、建設当初は「酒屋町(さかやまち)団地」と呼ばれていました。1948年に設計された『48型』と呼ばれる鉄筋コンクリート造りの公営アパートは現在、全国に5棟しか残っていません。

再活用へ「耐震性もあり、歴史的価値高い」

2019年まで、県営住宅として活用されていた「旧魚の町団地」について県は当初、取り壊す予定でしたが、建物の《歴史的価値》が高かったことなどから活用法を模索。民間事業者から、建物活用のアイデアを公募する再生プロジェクトを立ち上げました。

牧田さん:
「《公営住宅》としての役目は終わってるんですけれども、耐震性もありますし、立地が良かったりとか。あと『古い建物が好き』とか『こういったところを使ってみたい』という声もいただきましたので、今回、民間の事業者さんに委ねる形で、建物を新たに再生というか、もう一度使っていただきたいなという風に思っているところです」

再生プロジェクトはこうです──

県は、旧魚の町団地を、民間事業者に有償で貸し出します。事業者は、県に提案した再生のコンセプトに沿って施設をリノベーションし利用希望者を募ります。
利用希望者は、建物の内部を改装することもできることから幅広い活用が可能となっています。

長崎の厚い《時間の地層》を感じられるような空間

この再生プロジェクトに「民間事業者」として名乗りを上げたのが、長崎市出身で山形在住の伊東優さんが代表をつとめる建設設計事務所の「ツキノワ」でした。

ツキノワ 伊東優さん:
「利便性が高い《中心市街地》っていうのは、更新されるスピードも早いんですが、あそこだけはなんかポツンと《違う時間》が流れているような──長崎の厚い《時間の地層》を感じられるような空間があって、そこが一番の魅力かなという風に思ってます」

ツキノワの計画によると、旧魚の町団地の1階は誰でも使える共用スペースとして改装され「シェアキッチン」や「イベントスペース」などが設置される予定です。
2階と3階については、1部屋ごと、入居希望者に貸し出しオフィスやアトリエとして活用されることを想定しています。
若者やクリエイターの活動拠点として町に活力をもたらすような場所にしたい考えです。

伊東さん:
「ここを『ちょっと使ってみたい』とか、ここで『ちょっとイベントしてみたい』っていう人にも使っていただけるようシェアスペースを充実させていきたい。《ファン》を増やしていきたいなと…《魚の町ファン》と呼ばれる人たちを少しずつ仲間にして…自分もそのうちの一人なんですけども、みんなでこうやって盛り上げていこうとか、活用していこうというのを議論したいですね」

起業家向けの現地説明会も

公営住宅としての役割を終え、地域活性化のためのコミュニティー拠点として新たな歴史を刻み始めようとしている「旧魚の町団地」
入居者の募集や、建物の改修工事が今後行われる計画で、年内には新しい「魚の町団地」が始動する予定です。

旧魚の町団地の可能性を考えるワークショップは6月1日(土)午後1時半~開催されます。ここで何か起業してみたいという方のために現地見学会もあります。申込みなど詳しくは「魚の町団地ワークショップ」で検索ください。

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