長野県内を訪れる外国からの観光客が増え続けています。
大きな収益の柱となりつつあるインバウンド需要をどう取り込むか。
観光事業者の新たな取り組みを取材しました。
「天守1階入り口、お城の建物から約80分の列がございます」
5月3日。
ゴールデンウイーク真っ只中の国宝・松本城には、朝から大勢の観光客が訪れ、長い列が出来ました。
日本人観光客に混ざって、海外からの観光客も。
スイスから:
「景色が本当に素晴らしくて想像以上でした」
大型連休中に松本城を訪れた外国人は、2023年の1.5倍。
過去最多を記録しました。
長野市の国宝、善光寺も負けていません。
「スペインからきました」
「オーストラリアから」
「日本は安くなってる、もう高くない」
新型コロナによる行動制限がなくなった反動に加え、円安が追い風となって、2023年の県内の外国人延べ宿泊者は前の年の7.8倍に。
過去最高を記録した2019年のおよそ9割まで回復しています。
地域別でみると、台湾・香港・オーストラリアに続き、タイ・中国・シンガポールなどアジアの国々が目立ちます。
様々な国からの宿泊客をスムーズに出迎えようと、白馬村のホテルで今年1月に導入したのがこちら。
「ハロー」
「チェックインしたいんですけど」
フロントに設置された透明なディスプレイ越しに日本語で応対すると…
「ご予約のお名前をお願いします」
瞬時に英語訳が表示されました。
情報ビジネスを手がける国内メーカーが開発した翻訳ディスプレイで、都内の駅や百貨店でも採用されていますが、村内では初めての導入です。
大きな特徴は2つ。
一つ目が透明な板を挟んで、対面で接客ができること。
もう一つが…。
「タイ語でチェックインしてみたいと思います」
「朝食は何時からですか?」
「夕食は5時から7時です」
英語だけでなく、タイ語やインドネシア語など、13か国語に対応しているんです。
ホテル白馬 フロント 丸山大樹さん:
「英語の方以外でも会話ができるので、すごく便利に使っております」
「対面で目を見て会話ができるので、それが一番いいですね」
費用は、導入時の30万円にプラスして、月々8万円ほど。
客室数64のこのホテルにとって、決して安くはない金額ですが、外国語が話せる人材の確保が難しい中、果たす役割は期待以上だといいます。
ホテル白馬 柴田謙二社長:
「基本的には24時間ですので、深夜手薄になりがちな時間帯で誰でも使える」
「白馬は外資系のホテルも進出してきたり人材の取り合い」
「機械で対応できるものは、これからかなり有効な手立て」
人材不足が深刻な中、逆に人への投資に力を入れ、差別化をはかろうという企業も。
「ウェルカムエブリワン、ハロー」
松本市の英会話学校で行われていたのは、タクシードライバーのためのレッスン。
受講しているのは、アルピコタクシーの乗務員です。
「ナイストーミートユー」
アルピコタクシーでは、訪日客の対応を強化しようと、今年から英語での基本的な対応が可能なドライバーの養成を開始。
その名も「信州インバウンドおもてなしドライバー」です。
英会話学校と協力し、タクシー業務に特化した表現を学ぶ講座を用意し、希望する乗務員が受講します。
計12時間にわたるレッスンを経て、外国人講師による最終試験に合格すると「おもなしドライバー」に認定。
外国人旅行者の依頼に応じて、貸し切りツアーなどに乗務します。
レッスンで重視するのは、「おもてなし」の心が伝わる丁寧な言い回しや対応です。
AtoZ英会話講師 ジェームス・カーティスさん:
「アイコンタクトや握手、笑顔など文化の違いも伝えながら、丁寧な表現を大切にしています」
レッスンを担当するジェームス先生がこの日向かったのは…。
「HI!カーティスさんですか? 私はアルピコタクシーの高田です!」
4月に、おもてなしドライバー1期生に合格した高田さんのフォローアップ研修のため、お客役となって、実際にタクシーに乗り、松本市内をめぐります。
高田光さん:
「きょうのあなたのプランを確認させていただいてもよろしいですか?」
丁寧な言葉づかいで、予定を確認。
滑り出しは順調です。
アメリカ人の友人がいるという高田さん。
日常会話の経験はありましたが、業務で使う、接客に適した英会話は、今回いちから学びました。
高田さん:
「松本には川が多く流れています。これはススキガワ」
運転中も積極的に話しかけ、市内の観光情報を伝えます。
最初に向かったのは、松本城。
到着してまず必要になるのが、集合時間と待ち合わせ場所の確認です。
高田さん:
「10時55分にここを出る予定でよろしいでしょうか」
ここで、ジェームス先生から城の俗称についての質問が…
「なぜ、松本城は(一部で)カラス城と呼ばれているのですか?」
高田さん:
「えっとそれはお城が黒いから…理由は分かりませんが」
ジェームス先生が出かけると、すぐにスマートフォンを取り出した高田さん。
「由来」「文献上ではカラス城とよばれていた記述は見つかっていない」
高田さん:
「質問が出たので、その理由を突き止めようとしていま頑張っているところです」
根底にあるのは、松本を楽しんでほしいというおもてなしの心。
戻ってきたジェームス先生に、カラス城は正しい名前ではないことを伝え、壁には、黒漆が使われてることを話しました。
高田さん:
「松本いい所だろって、僕たちも言いたいんです」
「海外の方たちにも言語化してお伝え出来て松本を好きになってもらえればなと思う」
「お客様に楽しんでいただく、プラス自分の学びになっていく」
一見、長い道のりにも見える英会話ドライバーの養成ですが、ゆくゆくは、他社と差別化できる付加価値として売り上げに繋がると考えています。
アルピコタクシー・古田哲也 松本営業所長:
「人材不足で我々タクシー業界もその波にのまれてしまっているんですけど、少人数であっても質の高いものを提供させていただいて、回数が少なくてもしっかり売り上げが確保できるこういったものを商品化していく」
少子高齢化で国内の観光需要の減少が懸念される中、外国人観光客に選ばれるサービスをどう提供していくのか。
その取り組みが持続可能な会社づくりに繋がりそうです。
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