太陽光パネルを海上や海中に置いて発電させる実験が、首都圏で始まった。陸上でパネルを置ける場所が減りつつある中、ため池やダムでは既に商用化されているが、海での例は国内にない。国土の狭い日本で再生可能エネルギー拡大への新たな道を開くのか。

土台にパネルを載せた東急不動産の実験(同社提供)=東京都江東区で

 東京五輪・パラリンピックのボート、カヌー会場だった「海の森水上競技場」(東京都江東区)近くの海面に、30メートル四方にわたって太陽光パネルが浮かぶ。三井住友建設(中央区)が都の事業に応募し、今月発電を始めた実証実験。東急不動産(渋谷区)も隣で同様の実験を進めている。  再生エネの主力とされる太陽光発電は2022年度、国内発電量の9%を占めた。政府は30年度に14~16%まで拡大させる方針だが、平地や山間部でパネルを置ける余地が減り、環境や景観を守るため、条例で規制する自治体も相次ぐ。

三井住友建設が行っている海上での太陽光発電の実証実験=東京都江東区で

 そんな中、注目されているのが水上太陽光発電だ。ため池やダムに置かれ、パネルの土台となるフロート(浮き)をアンカー(いかり)で水底に係留する構造。2021年の米国立再生可能エネルギー研究所の報告書によると、設計の難しさから発電コストが地上型より2割高いが、熱に弱いパネルを水が冷却することで発電効率はアップさせられる。

◆海上の太陽光、波がハードルに

 実は、日本は先進地だった。愛知県で2007年に世界で初めて設置され、13年に埼玉県桶川市に世界初の大規模太陽光発電所(メガソーラー)が完成。ため池の多い兵庫県など各地に広まった。ただ、海上の実績はゼロ。台湾では既にフランスの大手シエル・テールが桶川市の100倍以上の規模の発電所を造っている。  海上での太陽光発電は、波と潮位の変動でパネルが破損する恐れがあり、ハードルが高い。三井住友建設は鋼製の外枠でフロートを支え、係留ロープに重りを付けて引っ張る力を保てるように改良した。塩害も主な課題とされ、実験では機器の腐食も調べる。  担当者は「ため池やダムがない地域に拡大していきたい」と狙いを語る。外海は風が強く、海底ケーブルでの送電コストがかさむことが想定されるため、東京湾や瀬戸内海などでの実用化を目指す。

◆海中、落とし穴だったのは…

 さらにパネルを「海中」に沈めて発電に挑むのは、神奈川大(横浜市神奈川区)の由井明紀教授だ。パネルを海面数センチに沈め、受ける光を大幅に減らさず、海上より高い冷却効果を見込む。鳥のふんや黄砂でパネルが汚れることも防げる。

神奈川大の海中太陽光発電の実験装置。パネルの上にマスクなどのごみも浮かんでいる=横浜市西区で

 最大の敵はフジツボ。パネルに付着して発電効率を下げる。削っても跡が残るため、パネルカバーの表面に幅が100分の数ミリ程度の溝を掘り、付着しにくくする技術を開発。実験では最大8分の1まで付着が減った。  昨年8月に商業施設が集まる横浜市内のみなとみらい21地区で発電実験を始めると、意外な落とし穴があった。濁った水や浮かぶごみだ。光が通らなくなり、出力が想定よりも落ちた。「きれいな海はあらゆる面で大切だ」と指摘する。

◆「日本でできない決定的な理由はない」

 一般社団法人「太陽光発電協会」(東京都港区)によると、海を除く国内の水上に導入できる設備容量は推計で8700万キロワット。これは、2023年12月時点の太陽光発電の設備容量を2割上回る。海は技術的な課題に加え、漁業権との兼ね合いや環境への影響を検討する必要があるが、潜在能力はさらに高いとみられる。  太陽光発電のコンサルタント会社「資源総合システム」(中央区)の予測では、水上太陽光の拡大は一時に比べ鈍化しているが、海に進出できれば、30年の累積導入量は進出しない場合の倍になる。杉渕康一・太陽光発電事業支援部長は「国外では船舶や石油プラントを手がける海事企業が参入している一方、日本は電気機器を扱う事業者が多く、海は機器損傷のリスクが高いと捉えて慎重になっている。ただ、日本でできない決定的な理由はない」と話す。

海中での太陽光発電の研究をする神奈川大の由井明紀教授=横浜市神奈川区で

 由井教授は専門としてきた精密加工技術を生かそうと、5年前にそれまで無縁だった太陽光発電にチャレンジした。蓄電池を積んだ「電気運搬船」と組み合わせて、送電コストを下げる将来も思い描く。「今ある技術だけでは再生エネの普及目標に届かない。どんどん新しい挑戦をしないと」

◆今月の鍵

 東京新聞では国連の持続可能な開発目標(SDGs)を鍵にして、さまざまな課題を考えています。今月の鍵は、SDGsの「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」。切り開かれた山の斜面をパネルが覆い、住民に不安を与える-。太陽光発電の負の側面に厳しい目が向けられています。関係者からは「海なら安全」という意見を聞きましたが、環境への影響はすぐには表面化しません。陸上での経験を生かした拡大を期待したいです。  文・米田怜央/写真・五十嵐文人、米田怜央 【関連記事】太陽光発電+蓄電池+EV 避難所に再エネ マイクログリッド 狭いエリアで電力融通
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米田怜央(よねだ・れお)=横浜支局

  1992年岐阜県生まれ。2014年入社。福井県南部での勤務時代に原発問題を取材。国のエネルギー政策に翻弄される地域住民の存在を知った。2020年から横浜支局で事件や裁判を担当。エネルギーや環境問題に関心あり。お酒と音楽と甘い物が好き。▶▶米田怜央記者の記事一覧


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