死をタブー視せず、年代や状況にもよらず、もっと多くの人が死をカジュアルに語れる社会に―。そんな願いを込めたイベントが13日から、東京・渋谷で初開催される。その名も「デスフェス」。若い世代も多く参加するというが、なぜ今、企画されたのか。(木原育子)

昨年以降、賛同者とともに月に1度のプレイベントを開き、準備を進めた(デスフェス提供)

◆終活スナック、デジタル遺品、納棺師…

 「死をもっと気軽に話していい社会に、ムーブメントを起こしていきたい」。主催した市川望美さん(51)と小野梨奈さん(46)はそう話す。2人はともに企業の経営者。イベント名には、湿っぽさを伴う葬送のイメージを吹き飛ばすためにも、あえて「フェス」という言葉を入れたという。

一般社団法人「デスフェス」共同代表の小野梨奈さん

 デスフェスでは70ほどのセッションを予定する。最新技術の仮想現実(VR)を使って地獄に落ちる体験をしながら、日蓮宗妙法寺(横浜市)の久住(くすみ)謙昭(けんしょう)住職の説法を聞く企画や、「人は死んだら森になる」と捉える公園墓地が定着するドイツの葬送を学ぶ企画、入棺体験など多種多様。出演者も「終活スナック『めめんともり』」を営む女性らや、デジタル遺品を考える団体、納棺師などバラエティーに富む。渋谷開催らしく、渋谷文化を象徴する「ギャル」も10人参加し、直感型でポジティブ思考のギャルマインドで死を捉え直す企画も用意する。

◆「死後は堆肥に」学ぼうと渡米

 2人はなぜデスフェスを開こうと考えたのか。市川さんは元々、エンディング関連のビジネスに興味があったが、昨年5月に父が急逝し「普段から家族で死について話し合えていたら」との気持ちをさらに強くしたという。  小野さんは、亡くなった後に専用のカプセルに入って微生物に分解されて弔われる「有機還元葬(堆肥葬)」が米国で合法化されたニュースを2019年に知り、「死後は私も堆肥に」と感じたことがきっかけだ。昨夏には手法を学びにシアトルに渡米。「日本での実施は法的課題も多いが、99.9%が半ば自動的に火葬されていく現実の中、さまざまな選択肢があっていいことを探っていきたい」と話す。今回のセッションの一つに加わる予定だ。

◆素直な感覚で捉え直したい若者たち

 元々知り合いだったそんな2人が昨年2月に再会し、「デスフェス」を開こうと意気投合。同10月から月に1度プレイベントを開き、今春に一般社団法人デスフェスを立ち上げた。

一般社団法人「デスフェス」共同代表の市川望美さん

 孤独死、墓じまい、無縁遺骨…。葬送を巡る社会課題が山積する。雑誌「SOGI」の元編集長で、葬送ジャーナリストの碑文谷創さんは「葬送の変化を見てきた者としては、来るところまで来たという思いだ」と語る。デスフェスについて「家族葬も増えて、葬送を体験できる場が少なくなり、若い世代が自分たちの素直な感覚で捉え直したいと考えたのだろう。ある意味健全な流れだ」と話す。

◆4月14日を「よい死の日」にしたい

   学識者や葬祭業者らでつくる「日本葬送文化学会」の長江曜子会長(聖徳大教授)も「多死社会が到来している一方で、墓じまいなどで死者とコミュニケーションを取る環境も少なくなり、死が目隠しされている現状だ。そんな中で死を身近に感じたい思いの表れが、イベント開催につながったのだろう。命の大切さを実感できるイベントにしてほしい」と期待する。  市川さんと小野さんはフェス期間中の4月14日を「よ(4)い(1)死(4)の日」にしたいという。「ともにミドル世代に突入し、死に向き合うことは自然だった。死を考えることは、これからどう生きるかに向き合うことにつながる。イベントを一過性にせず続けていきたい」  イベントは13~18日11~20時(13日は20時半、18日は18時まで)、渋谷ヒカリエ8階。無料。 

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