習近平氏のフランス訪問を伝える人民日報の投稿=微博(ウェイボ)より

 中国では今月7日、共産党機関紙「人民日報」が配達されなかった。中国各地の共産党系地方紙も大幅に発行が遅れるか、配達されなかった。  異例の事態は、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席のフランス訪問と関係がある。仏時間6日の中仏首脳会談に関する国営新華社通信の記事配信が、大幅に遅れたのだ。新華社の独占配信記事を必ず載せなければならない地方メディアの関係者は、7日午前8時半(中国時間)時点で「まだ今日の新聞を作ってる」と嘆いていた。徹夜したらしい。新華社は配信時間を事前に教えてくれない。  中国メディア元記者によると、通常の記事は党中央宣伝部の担当者が検閲し、問題がなければ決定稿となる。だが今回に関しては「蔡奇(さいき)・党中央弁公室主任が検閲したのだろう」と話した。重要記事は最高指導部メンバーが直接、検閲するという。宣伝工作を担う蔡氏は習氏の信任が厚く、訪仏にも同行していた。  この元記者によれば、検閲段階で、習近平弁公室や党中央宣伝部、外務省などの調整に時間がかかったとみられる。不測の事態が起きたのではなく、「習政権が今回の訪仏を極めて重視していることの裏返し」と分析した。  結果として、中仏首脳会談に関する詳しい報道は7日午前にようやく始まった。7日付新聞の印刷には到底間に合わないが、新聞を読む中国人は少ない。ウェブ上では午前から記事が読めたため、影響は最小限だったとみられる。  習政権が演出したかったのは「国際社会で孤立していない」というイメージだろう。米国主導の中国包囲網に多くの中国人が不安を感じているためだ。7日夜に更新された人民日報電子版は、1面に習氏とマクロン氏が並ぶ写真が5枚も使われた。  そうした中国の意図を理解してか、仏側は盛大に習氏をもてなした。マクロン氏自身が習氏を空港まで出迎え、幼少期の思い出の場所という南仏の山岳地に招き、そして中国の新聞は8日も、大幅に遅れた。セルビアとハンガリーの訪問も含め、今回の習氏訪欧は大成功だったといえる。  中国は、対仏外交でも巨大市場を存分に活用した。農産物や航空機、原子力発電など幅広い分野で合意をまとめた。問題視していた仏産コニャックへの関税措置を見送り、短期ビザの免除措置も延長した。電気自動車(EV)の過剰生産は批判を浴びたが、想定の範囲内だったはずだ。  中国は米国とも防衛や人工知能(AI)などで対話を進める。やはりEVの過剰生産は課題だが、「競争の管理」(バイデン米大統領)に向けた努力が続く。  一方、日本と中国は昨年11月の首脳会談以降、表立った対話の動きはなく、疎遠ぶりが突出している。今月末に予定される日中韓首脳会談での中国側出席者は、近ごろ影の薄い李強(りきょう)首相だ。人民日報はきっと、通常通り配達されるだろう。(政治部)


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。