埼玉県東松山市にある「デイサービス楽らく」では「クロスプレイ東松山」という取り組みが行われています。

アーティストがデイサービスに宿泊・滞在

この「クロスプレイ東松山」とは、様々な分野のアーティストがデイサービスの利用者と時間を共にしながら創作活動を行う取り組みで、2022年に活動が本格化しました。この活動が始まったきっかけや内容について、企画した一般社団法人ベンチの藤原顕太さんは以下のように話します。

一般社団法人ベンチ・藤原顕太さん
「デイサービス楽らくを運営している医療法人社団・保順会は、地域の中でいろいろな人たちが年老いても豊かに生活していくために、医療や介護だけではなく『文化的な活動』も必要だというふうに考えられています。その中で『施設を活用して文化的な活動が行えないか?』ということで話す中で、アーティストの人が施設に宿泊・滞在をして自身の作品作りなどを通じて、利用者や職員と文化的に交流をしてもらうというプロジェクトをやろうと企画しました」

藤原さんによると、これまでにダンスや演劇、美術、短歌などを利用者と共に作り上げたということです。

利用者との丁寧な会話から生まれた「歌」

取材した日は音楽家のアサダワタルさんと「デイサービス楽らく」に通う利用者、そして近所の東松山市立唐子小学校の児童たちで作った「また明日も楽らくで」のお披露目会が行われました。

アサダさんが月に数回、デイサービスに宿泊・滞在している間にラジオ番組のような形で利用者からエピソードを聞いたり、送迎車にも同乗して話を伺うなど、長い期間をかけて丁寧に作られました。

「また明日も楽らくで」はデイサービスの外にある赤い時計台から流れます。時計台は、一緒に歌った唐子小学校の通学路に面していて、児童が登下校する時間帯に聞こえるようにしているということです。

お披露目を終えたアサダさんの感想です。

音楽家・アサダワタルさん
「最初はすごく不安だったんですね。元気いっぱい歌うという感じの世代でもないというか、おっとり歌ってらっしゃる。でも、歌詞やメロディーで覚えてくれるかなと思っていたんですけど、毎日歌ってると、もう徐々にその方々の歌い方になっていったと思うようになり、利用者さんが自分の歌にしてくれたなという感じは面白かったですよね」

レコーディングに参加した90歳の女性は「子どもたちと歌うことができて、すごく若さをもらったような気がする。歌も心に染みて素晴らしかったです」と話し、88歳の女性は「みんなで歌を歌えるのが楽しいですよね」と肯定的な意見が多く寄せられています。

デイサービスの利用者にも役割がある!

「デイサービス楽らく」の武田奈都子施設長は「クロスプレイ東松山」が高齢者の生きがいにつながるという考えを示します。

デイサービス楽らく・武田奈都子施設長
「高齢者の利用者さんに関しては、役割ができたような瞬間があります。アーティストが滞在し始めた数日間は戸惑われているんですよね。そうした時に利用者さんがアーティストを励ましたりとか、ここはこういうところよって教えるなど、自分がここにきて介護を受けるだけじゃなくて、アーティストに対して提供するものがあります。家や施設だけになってしまうと、全部受身なんですよね。それが、自分の方から発信するっていうようなことが生まれていると思います。そうしたことが、自分の中の自信になったりしていて、役割があるということは、その方の生きがいにも繋がったりとか、刺激になっているなと感じます」

歌作りに関しては完成したことで一区切りとなりました。施設長の武田さんは今後について、福祉に興味のあるアーティストに来てもらい、とにかく生きていることを“良かったね”“喜ばしいね”と思えるような空間や時間を作っていきたいとしています。

誰もが生き生きと。そして主体的に関わることができる「クロスプレイ東松山」。高齢者支援の新たなカタチとして注目していきたいと思います。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・宮内悠也)

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