「異常ですよね、常軌を逸していると思います」。クリスマスの夜に知人女性の飲み物に睡眠導入剤を入れ、性的暴行に及んだ自らの犯行をこう語った被告人。当時、経済産業省のキャリア官僚で、「国際畑のホープ」と呼ばれていた男だ。なぜ卑劣な犯行に及んだのか。法廷で「被害者が傷つくことはないと思った」「寝入った人と接触しても快感を覚えない」と言い放ち、身勝手な自己弁護に走る場面も目立った。

なぜ睡眠導入剤を?「下駄をはかせる感じ」

経産省の元キャリア官僚、佐藤大被告(34)。2022年7月から12月までの約半年間で知人女性ら6人に対し、睡眠導入剤入りの飲み物を飲ませて抵抗できない状態にして性的暴行を加えた準強制性交罪や、準強制わいせつ罪などに問われている。2024年2月、東京地裁で行われた被告人質問では、睡眠導入剤を入れた動機について語った。

【被告人質問】
ーー飲み物に睡眠導入剤を入れたのは、どういう効果を期待した?
酔いの程度が少し強くなる効果を期待した

ーー最終的に何が目的だった?
下駄をはかせる感じで、1次会で終わる飲み会を2次会までいけたら、2次会の次に散歩など、その次の段階にいけることを期待していた

ーー2次会などに行って、被害者と何を期待していた?
孤独感があった。1人でいるのが怖くて、誰かと一緒にいたい気持ちが強かった

被害者の6人はいずれも、飲食店でトイレに行った時などに、知らぬ間に睡眠導入剤を入れられている。佐藤被告は起訴内容を認める一方で「判断能力が下がった人や寝た人に何かをする性癖はない」と繰り返し強調した。

ーーFさん(準強制わいせつ未遂の被害者)が寝ているとき、わいせつな行為をしたのでは?
していません。寝入ってしまった人や酔っ払った人と性的接触があっても、快感をおぼえない

「国際畑のホープ」一転、中国赴任で「自信喪失」

「自分で言うのもなんだが国際畑のホープと言われていた」。自身のキャリアをこう誇った佐藤被告。大学を卒業するまで女性との交際経験がなかったが、経産省に入省したことで変化が起きた。

被告人:政治家や政府高官などから娘を紹介したいと言われたり、霞が関の同僚からアプローチを受けたりすることもあった

その頃には、結婚を前提に付き合っている女性がいたものの「ちやほやされて誇らしく感じた」。大臣官房の筆頭係長に抜擢されるなど官僚として順調にキャリアを積み重ねていったが「過労や上司からのパワハラで体が壊れた」という。

その後、中国・瀋陽の総領事館に赴任。佐藤被告によると、いわゆるノンキャリの職員が行くことが多いポストだったことから「キャリアパスへの不安」が深まっていった。中国で医務官に処方してもらった睡眠導入剤を帰国時に持ち帰り、今回の事件に使っていた。

ーー睡眠導入剤を使ってまで、なぜ女性に近づきたいと?
自信を喪失していて、断られるのがすごく怖かった

「被害者が傷つくことはない、露見することはないと思っていた」が、2023年1月に逮捕される。初公判の後に懲戒免職された。

ーー経産省で何がしたかった?
国際情勢が揺れ動く中で日本の繁栄を支えたかった

デートレイプドラッグ「記憶ない」被害者の“怒り”

睡眠薬など「デートレイプドラッグ」と呼ばれる薬物を悪用した性犯罪は後を絶たない。薬の影響で記憶が曖昧だったり、酒に酔ったことによる失敗だと思い込んだりして、警察への相談をためらう被害者も多い。被害者のBさんは、佐藤被告が逮捕された後に警察に相談したという。

Bさんの意見書(弁護士代読)
「知らない間に薬を飲まされたことを知り、人とお酒を飲むのもトイレに行くのも恐ろしくなった。ニュースサイトのコメントに『被害者に隙があった』と書いてあり自分を責められている気持ちになった」

Dさんもまた、被害にあった時の記憶が曖昧だ。

Dさんの意見書(検察官代読)
「眠ったときに記憶をなくし、よく覚えていませんが、目が覚めて太ももにあった手を払ったときに驚いた被告の顔をよく覚えています」

Aさんは、傍聴席や被告人席から見えない形で覆われたついたての中から意見を述べ、怒りをあらわにした。

Aさんの意見陳述
「被告人は性暴力目的で睡眠導入剤を使ったのだとはっきり言うべきです。事件の本質的な原因が自分にあることの自覚が不十分です」

事件の後、3か月の休職をせざるを得なかったAさん。「弁護士費用を考えると、それ以上の休養はできなかった」と語った。

Aさんの意見陳述
「性被害は他人に打ち明けられません。人間関係を避けるようになり、仕事でパソコンに向かっている間も涙が止まらなかった。世界から私だけが取り残されたようでした」

懲役10年判決「あなたが思うより重大なこと」

裁判の中で「他の参加者もいる」とうそをついて被害者を食事に誘い出していたことや、意識がない状態のCさんをスマホで撮影していたことも明らかになった。

ーーCさんの裸の写真を撮ったのはなぜ?
歪んだ自己満足です

佐藤被告は、撮影した寝顔の写真をCさん本人にLINEで送っていた。

ーー「写真を消してください」と言われて消さなかったのはなぜ?
冗談めかした口調に見えたのと、きちんと管理していれば大丈夫だと思った

検察側は懲役13年を求刑。2024年5月13日、言い渡されたのは懲役10年の判決だった。東京地裁は「危険かつ被害者の尊厳を無視した非道な犯行」と非難した。

中尾佳久裁判長
「被害者は睡眠導入剤の作用で記憶が曖昧になっていたため、当初は多くの人が被害にあったことさえ認識できず、捜査の進捗によりようやく被害を知ることになった」

裁判長は「被害者の嫌悪感や不安感などの精神的苦痛は大きい」とおもんぱかった。判決の言い渡しを終えると、こう諭した。

中尾佳久裁判長
「あなたがしたことはあなたが思っているより重大なことなので、被害者に与えた精神的苦痛を考えてほしい。重大さについてもう少し深く分かって欲しい」

佐藤被告は無言で法廷を後にした。

(TBSテレビ社会部 高橋史子)

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