悪質な選挙妨害か、「表現の自由」の範囲内か。衆院東京15区補選で、複数陣営からつばさの党による被害相談を受けてきた警視庁は17日、公選法違反の疑いで、党幹部ら3人を逮捕した。元候補者陣営を同法の「選挙の自由妨害罪」で立件できるかどうかを慎重に検討し、異例の逮捕に踏み切った。(佐藤航)

他候補陣営の前に立ち、声を出すつばさの党代表の黒川敦彦容疑者(手前)=2024年4月16日、東京都江東区で

 これまでの自由妨害容疑の立件は、市民が候補者に暴力を振るったり、ポスターを破ったりするようなケースが大半。今回のように候補者らが他陣営への妨害で立件された例は見当たらず、警察の政治介入と取られる恐れもあった。黒川敦彦容疑者は家宅捜索後に「表現の自由を守るために闘う」と主張していた。

◆選挙後も著名人宅押しかけ、街宣繰り返す

 難しい判断を求められる中、捜査2課は過去の判例を調べ、警察庁など関係機関と協議を重ねた。1954年の大阪高裁判決では「聴衆が演説内容を聞き取りがたくなるほど執拗(しつよう)にやじ発言や質問をし、一時、演説を中止せざるを得なくした行為」を選挙妨害と判示。他陣営の演説がかき消されるほどの拡声器での大音量の発言や車のクラクションなどといったつばさの党の行為は、これに該当すると判断した。

他陣営の演説中に公衆電話ボックスの上から声を上げる根本良輔容疑者=2024年4月16日、東京都江東区で

 つばさの党は選挙後も、他陣営の候補者や自分たちを批判した著名人らの自宅に押しかけ、抗議の街宣を繰り返した。捜査幹部は「被害者を威迫し、被害届を取り下げさせることにもなりかねない」と話し、逮捕に踏み切った理由を説明。「表現の自由の一線をはるかに越えた悪質行為だ」との見方を示した。

◆公選法改正しても歯止めにならない可能性

 元裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授(刑事法)の話 演説ではある程度質問が許され、行為が実際に妨害に当たるのか、警察官が現場で判断して現行犯逮捕するのは難しい。音量や頻度、全体の演説時間のうちどれぐらいできなくなったかなど、証拠を積み重ねた上での判断とみられ、妥当な対応だ。妨害行為の要件の明確化など公選法改正の議論もあるが、具体例を書き込んでも裏をかかれることが考えられ、歯止めにならない可能性がある。現行法で、全体の評価として妨害に当たるかどうかを判断するしかないのではないか。 

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