どんな状況でも攻め続ける。体重無差別で争う4月の全日本柔道女子選手権(皇后杯)で、78キロ級の池田紅(くれな=東海大)は「笑顔で粘り強い柔道」という持ち味を見せた。2年連続の3位という結果に悔し涙を流したが、その闘いぶりからは、緊張のあまり実力を発揮できなかったという過去は想像できなかった。
全日本柔道女子選手権で米川明穂(右)と対戦する池田紅=4月、横浜武道館で
東京都江戸川区出身の21歳。姉と兄の後を追い、5歳で地元道場の畳に上がった。稽古熱心ではあったが、女子66キロ級で全日本選抜体重別選手権を制するなど国内トップ選手だった母の佐智子さん(54)は「最初はまったく勝てずに、試合が嫌だったと思う。いつも緊張して表情をこわばらせていた」と振り返る。◆新たなルーティンで急成長
それでも強豪の藤村女子中学・高校(東京)に進学。そのころに始めた習慣が飛躍につながった。試合の直前、深呼吸して客席に顔を向け、佐智子さんと数秒のアイコンタクト。「元気に自分らしく」という思いを受け取り、闘う態勢を整える。スタンドから池田紅の応援をする母・佐智子さん
すると試合中の表情が変わり、動きも良くなった。「苦しくても笑顔でいれば『私はまだ余裕』と(相手に)圧をかけられる」。粘りを身上に78キロ級で全国高校総体2位、東海大進学後は昨年の講道館杯3位、今年の選抜体重別選手権2位と、シニアカテゴリーでも国内上位に進出するまでに成長した。◆「大事なのは最後まで力を出し切ること」
皇后杯でもスタイルは変わらなかった。今大会から試合時間が4分から5分(決勝は8分)になり、延長戦は廃止で旗判定が復活した。ルール変更を「最後まで力を出し切ることが重要。自分の柔道をする」と前向きに捉えていた池田。 言葉通り3回戦は組み手争いで主導権を握り、残り5秒から腕ひしぎ十字固めで一本勝ち。準々決勝も体重100キロの相手を攻め続け、旗判定で勝利した。準決勝は相手の投げ技を防いだ際に右腕を痛め、苦悶(くもん)の表情を浮かべた。それでも「自分から行くしかない」と最後まで粘り、持ち味は貫いたが、旗判定の末に敗れた。 個人戦で日本一になったことはない。大会後は「また3位だった。実力差が大きい」と悔し涙を見せながらも「まだ(11月の)講道館杯もある」と前を向いた。パリ五輪に注目が集まる中、その先を担うであろう選手たちの戦いも目が離せない。(渡辺陽太郎) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。