特集は、災害時の「水」について考えます。
元日に発生した能登半島地震から4か月余りがたちましたが、被災地では未だ3,000戸以上で断水が続いています。

こうした中、改めて注目されているのが「井戸」の活用です。
長野県内でも起こるかもしれない大地震に対して、できる備えとは。


元日の能登半島を襲った、大地震。


最大震度7の揺れにより、能登地方の広範囲で水道管が破損し、石川県内ではおよそ6万7,000戸が断水しました。

各地から給水車が派遣されるなどしましたが、断水は長期化。

被災した住民(発災3か月):
「いま一番水が欲しいですね。洗濯もしなきゃいけないし」
被災した住民(発災3か月):
「水が一番、大切ですね。電気が来ていても炊事洗濯できん」

洗濯や風呂、トイレなどで使う「生活用水」の不足が深刻な課題となりました。

こうした中、有用性が注目されたのが「井戸水」です。

七尾市では、営業を休止していた銭湯が、近所の人に井戸水を提供。

利用した住民(1月):
「つくづく水のありがたさがわかりました」

水道の復旧のめどが立たない中、珠洲市では新たに井戸を掘った高齢者施設もあったといいます。

災害時の生活を助ける、井戸。

その特徴について、専門業者は…

サクセン 高橋作夫(たかはし・さくお)社長:
「地層が揺れるので、一時的に井戸が濁ったりとか、そういうことはしますけれども、ほとんど被害はない。最初は濁るかもしれないが、すぐ使えると思う」


井戸の掘削業者でつくる「全国さく井(さくせい)協会」の調査では、東日本大震災で94パーセント、熊本地震では97パーセント余りの井戸が、地震後も使用できたといい、「揺れに強い」とされます。

松本市の掘削業者・サクセンの高橋社長は、地区によっては、防災用の井戸の整備も必要になってくると指摘します。

サクセン 高橋作夫社長:
「水が一番困るっていうことが、能登の大震災でもはっきりしたと思うんで、(山間部など)孤立しそうな地域で、きちんと避難所を選定して、井戸も備える。地区ごとに年1回は避難訓練をしますと。そのときに合わせて災害用の井戸がきちんと動くかどうか点検するとか、そういうことは大事だと思います」

災害時に井戸を活用するための取り組みは、県内でも進められています。


伴野酒造 伴野賢一(ともの・けんいち)社長:
「ここでお酒を仕込むときに、ここに井戸水・地下水を溜めて冷却して、仕込む」

地元産の酒米を使ったこだわりの日本酒づくりに欠かせないのが、地下から井戸で汲み上げる八ヶ岳の伏流水です。

佐久市野沢にある敷地の一角に案内してもらうと…

伴野酒造 伴野賢一社長:
「レンガの囲ってあるところが、仕込み水用の井戸なんです」
これが災害の時には?
「はい、そうですね。あの井戸を、災害用で協力してくださいってことでやっています。で、出るところはこちらが…」
井戸の水がここから?
「はい、ここから出ます」

佐久市が2018年に導入したのが、「災害時協力井戸」の登録制度。


井戸を所有する企業や個人が事前に登録し、災害時には周辺住民などに水を提供する制度で、伴野酒造は当初から登録をしています。

伴野酒造 伴野賢一社長:
「普段、やはり自然の恵みで私たちの会社も恩恵を受けてますので、災害時のときは地域の皆さんに協力できることをやって恩返ししようっていうことで」

佐久市によると、市内にはおよそ1,700の井戸があり、災害時の協力制度には、現在、42か所が登録されています。

佐久市環境政策課 吉見仁志(よしみ・ひとし)さん:
「指定されると、こういった看板を市の方でお出しするので、これを井戸のそばに掲示していただいています」
「数を増やすのも大事なんですけど、地域的に市内のどの場所でも均一にあるっていう状況が一番いいのかなというふうに考えていますので、地域ごとに皆さんが利用できる井戸を増やしていけるような形でいけたらいいのかなと思ってます」

一方、観光資源として公共の井戸を整備し、防災にも活用しようと取り組む自治体もあります。


松本市都市計画課 平林祐介(ひらばやし・ゆうすけ)さん:
「こちらは東門の井戸といいまして、平成19年に松本市が工事して設置したものになります」

「湧水のまち」を謳う、松本市。

松本城周辺には、市が設置した井戸が20か所あり、うち15か所は、普段は電動のポンプで水を汲み上げています。

電気が停まってしまうと、水も出なくなる?
松本市都市計画課 平林祐介さん:
「そうですね。停電した場合にはそうなる」

そこで、備えられたのが…。

松本市都市計画課 平林祐介さん:
「こちらが、手動のポンプを付けるものになっていて、このコックを開いたり閉じたりして、電動のものから手動のものに切り替えて、機械を取り付けて使う」


災害時の利用を想定し、簡易式の手動式ポンプとホースを近くの施設に保管しています。

取り付け後、しばらくポンプを上下させると…

ホースの先から、水が出てきました!


同様の設備は6か所の井戸で備えられていて、もともと手動式の井戸なども合わせ、公共の井戸のうち11か所は停電時でも使えるといいます。

松本市都市計画課 平林祐介さん:
「飲み水については給水車等々、しっかり計画を立てて災害に備えているんですが、こういった井戸水を使って生活用水をカバーしてくことは、十分ニーズがあるんじゃないかというふうに思ってます」
「普段から使える井戸ですので、、日常の管理や活用というのをしっかり住民の方と一緒にやっていく中で、井戸を身近に思ってもらうことも大事ですし、その中で例えば訓練であるとか災害時への備えというのを、みんなで共有していけたらいいのではないかなと」

現代の日常生活からは姿を消しつつある井戸ですが、過去の災害の教訓からその役割が見直されています。

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