東北に、ただ1人、全国にも十数人しかいないという剣道で使われる「竹刀」を作る職人の男性が仙台にいます。宮城県産の竹を使って竹刀づくりに打ち込む男性の姿に迫ります。

剣道7段の男性は竹刀職人

剣術の稽古を通じ武士の精神を学ぶ武道「剣道」。スポーツとしても老若男女に親しまれています。そんな剣道に欠かせない道具が竹刀です。

剣道6段の人:
「剣道自体が変わってきたなと、竹刀に育てられているというか」
剣道8段の人:
「私はもう今は彼の竹刀一辺倒だよ」

剣道7段の加藤明彦さん(68)は、一緒に汗を流す仲間たちなどの竹刀を作っている職人です。

加藤明彦さん:
「幼稚な時からお金を払って使ってくれたんですよ。今はほめてもらうけど育ててもらった。本当にありがたく感じています」

きっかけは先輩職人の一言

加藤さんの工房「竹の園生」は、仙台市太白区にあります。

竹刀職人 加藤明彦さん:
「1枚の竹をこうやって8つに割って、竹刀で言うとこれが2本できる形」

小学生の頃から剣道を続けてきた加藤さんが本格的に竹刀づくりを始めたのは、60歳で仕事を定年退職した後です。師匠となる先輩職人の一言がきっかけでした。

加藤明彦さん:
「宮城の竹を十数年前に初めて持って行った時に、『こんなに良い竹見たことない』って、日本一だって。その日本一の竹があるところに1人も職人がいないのはもったいないと言われた」

かつては全て職人が手作りしていた竹刀。しかし、機械を使って量産する安価な外国産に押され、今、国産のものは全体の1%にも満たないと言われています。

職人の数も減り、全国に十数人、東北には加藤さんただ1人です。

宮城の竹は日本一、その理由は

加藤さんは、竹刀の材料となる真竹を県北の栗原市のいくつかの竹林から手作業で切り出しています。

加藤明彦さん:
「この尺棒で合わせるんですよ。ここが(竹刀になった時に)見える“節”なんですけど、この節に合わせて・・・これなんか一番いいですね。ここの中に節がみんな収まっている。こういう竹を切っていく」

本来は竹が乾燥している冬にしか行いませんが、今回、特別に竹の切り出しを見せてもらいました。

加藤明彦さん:
「風や雪にいじめられるからすごく強い竹ができる。質、強さ、粘り、打った時の音。宮城の竹が日本一だって。ほかは比べ物にならない」

バキッと竹を8つに割る加藤さん。

加藤明彦さん:
「壊れる竹刀を作ればすぐにまた買ってもらえるんだけど。壊れない竹なので私、商売上がったりで(笑)」

良い意味で職人らしくない腰の低さにも人柄が出ています。

竹刀にかける情熱

竹林の所有者である萩生正敏さんが加藤さんの人となりを聞かせてくれました。

竹林の持ち主 萩生正敏さん:
「初めて会った時はちょっと強面で心配したが、話していると竹刀について熱く語るもので、つい私も応援したくなってね」

竹林の持ち主 萩生正敏さん

加藤明彦さん:
「竹に負けないような竹刀作りたいですね」

竹刀にかける情熱は周囲の人たちにも伝わっていました。

1度に数百本切り出す竹は、工房で2年間乾燥させ、ようやく材料として使えるようになります。加藤さんの竹刀はフルオーダーメイド。重さや重心の偏りのほか、束の長さや直径はミリ単位まで客ひとりひとりの好みに合わせて作ります。

竹を大まかに削った後は「矯(た)め」と呼ばれる工程。4枚を隙間なく組み合わせ竹刀の形にするために竹を炙って真っすぐにしていきます。

加藤明彦さん:
「これが全てですね。こんなに曲がっているじゃないですか。これが真っすぐになるんですよ」

真っすぐになった竹(左側)

真っすぐになった竹を何段階にもわたって削り微妙な重さや太さなどを調整していきます。

加藤明彦さん:
「(出来上がった竹刀を)渡した時の嬉しそうな顔を見た時、やってよかったなって本当に思ったね。安い竹刀もいっぱい出回っているから。外国の竹刀で私の竹刀の3分の1くらいで売っているけど、でも高いものを買ってもらって使ってくれるという、この気持ちは一生忘れてはダメだとつくづく思いますね」

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