長野県はギターの生産量が全国1位で、国内出荷額の半数近くを占めています。
その一大産地の松本で、オリジナルのギターを生み出し、ものづくりの技術を磨いている会社があります。
この時期にぴったりなギターです。


♪桜の下で演奏

桜の下から聞こえてくるのは、アコースティックギターの音色。

春の日差しのもと、優しいメロディが流れます。


実はこのギター、世界的にも珍しい桜の木で作ったその名も「桜ギター」なのです。

桜ギターを開発した松本市のギターメーカー「ディバイザー」を訪ねました。

「こちらがギターの作業場です」

かぐわしい木の香りが漂う中、職人がギター作りに汗を流していました。

ディバイザーのグループ企業で、アコースティックギターやエレキギターを製造している「飛鳥(あすか)」。

質の高いギターは世界から高い評価を受けています。

テクニカルディレクター安井雅人(やすい・まさと)さん:
「ギターのこの横の部分と、裏の部分ですね。この白い方の木が桜の木になってます。これヤマザクラって呼ばれてる。よく山にポツポツと咲いてる桜がヤマザクラなんですけども、木目の整ったこのまっすぐな綺麗なものとか、杢(もく)って呼ばれてましてこれ、うねうねと動きが出るような杢のあるもの、種類がいっぱいいろんな桜があって、特徴がいろいろ変わってきますね」


桜ギターの開発を始めて10年。

ヤマザクラのほかに花見で親しまれているソメイヨシノやシダレザクラ、さらに2500年もの間、地中に眠っていた「神代木(じんだいぼく)」といわれる貴重な桜材もギターに変えてきました。



桜ギターは職人が一本一本手作業で組み立てます。

ボディの側面を作る工程。

熱湯に浸した厚さ2ミリほどの桜の板を型にはめ、熱を加えて成形します。

材質によって曲げ時間を調整するなど気を使いながらの作業です。


セクションマネージャー降幡新(ふりはた・あらた)さん:
「アコースティックギターによく使われるローズとかマホガニーいう木よりも結構作るのは難しいですね。特に杢の入ってるものは、簡単にこの一番きついところがパキッと、割れてしまうことありますね。今うちで作ってるものの中でも難易度は一番高いようになりますね」


西洋が発祥のアコースティックギターは、ローズウッドやマホガニーといった輸入材を使うのが一般的で、日本の木材を使うことはほとんどありません。

その常識を覆し「日本のメーカーとしてのアイデンティティを大切にしたい」と「桜」に目を付けたのが飛鳥の八塚悟(やつづか・さとる)社長です。

飛鳥 八塚悟社長:
「元々日本の木で楽器を作りたいってのがあったんですけれども、桜ってなんか日本の木というか楽器になれば面白いなってのは初めあったんですけれども、本当にね今まで加工したことないものだったんで」

オーソドックスな木材しか使ったことがなかった職人たちは当初、社長の提案に戸惑ったといいます。



テクニカルディレクター安井雅人さん:
「初めてサクラが来たってときに、これで作れって言われたときに、『できるのかなこんなので』っていうね、正直わからない、やってみないとわからないというところでしたね。10年かけて良い音っていうのを突き詰めていきましたね」

試行錯誤を繰り返し、作り上げてきた桜ギター。

今年のモデルを試しに弾いて音を確かめます。

(♪ギター試奏)

セクションマネージャー降幡新(ふりはた・あらた)さん:
「桜ならではのちょっと優しい柔らかな響きがしますね」
このギターの出来はいかがですか?
「そうですね…100点です 笑」


飛鳥 八塚悟社長:
「日本じゃもちろん、うちしか桜のギター作ってないですし、世界でもまあね日本のこの桜で作ってるギターはうちだけなんで、逆に言えばそこが売りというかやっぱ人がやってないことをやりたいってのがまずうちの会社の強みだったりして」

尽きない探究心はこんなギターも生み出しました。

ディバイザー原庄平部長:
「アカマツを使ったギターです。松くい虫の伝染病被害で枯れてしまったアカマツを使って作ってます」


あえて残した虫食いの穴や節(ふし)。

強烈なインパクトを与えます。

ディバイザー原庄平部長:
「普通はですね、こういうふうに穴が開いてると不良品とされてしまうんですが、敢えてですね、そういう松枯れの問題が、松本に多いというところもありますので、そういう問題の周知のためだったりとか、こういう個性的なギターがあっても、いいんじゃないかと」

桜ギターのスタートから10年、様々なモデルを送り出してきました。

ディバイザー原庄平部長:
「いろんな形の違いとか、色の違いとか入れると100種類以上は作っていると思いますね。デザインにも非常にこだわっておりまして、このピックガードの形ですとか、こういう指板のですね、インレイっていうんですけども、こういうところにもですね毎回ですね、シーズンごと新しいデザインを考えて、ギター全体で桜のイメージを作っています」



展示室で取材中、突然、外国人のお客さんが入ってきました。

「フランスとドイツです」

旅行で来日したという夫婦。

岐阜県の高山市から東京へ向かう途中に、“桜ギターを見るためだけ”に松本に立ち寄ったそうです。

「これいいねグレイでパーフェクト」
「これベリーーナイス。これ買いたいな、全部きれいね素敵」

フランス人妻:
「ここに来る前にずっと探していて、これに出会うのが夢だった」

1年前から夢見ていたという桜ギター、即お買い上げです。

「私のギター、とってもきれい」

♪女性即興で演奏

自分で曲を作ってギターを楽しんでいるという女性。


小さいボディでも音がふくよかに響くと大満足でした。

♪桜の下で演奏

日本を象徴する桜のギター。

創業から培ってきたものづくりの精神を大切に、まだ見たことのない新しい世界へこれからもチャレンジを続けていきます。


飛鳥 八塚悟社長:
「やっぱ他がやってないものをやっぱ作れる喜びとね、やっぱりそういうとこやっぱでかいじゃないすか。なんで、特に今の時期なんかね桜満開でね、桜ギター弾きながら『桜』弾いてもらうと一番嬉しいかなとは思いますね」

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