5月4日、5日に実施した最新のJNN世論調査で岸田内閣の支持率が前回調査と比べ7.0ポイント上昇し29.8%。一方、不支持率も7.1ポイント下落した。まずは政府・自民党内の声から紹介したい。
「え、なんでそんなに上がってるの」(自民党幹部)
「誰も信じてないな」(自民党幹部)
「そんなはずがない笑」(自民党関係者)
「困るんだよ。どうするんだよ(衆議院)解散したら」(自民党関係者)
「総理の外交は評価するが、自民党にはお灸を据えなければ気が済まない、という感じではないか」(閣僚経験者)
「外遊の効果が続いたんだと思う」(政府関係者)
「単純にネガティブな話が続かないタイミングでの調査だったからでしょ」(官邸幹部)
おおむねこのような意見だ。先月28日に投開票が行われた衆院の3つの補選で”全敗”後の世論調査でなぜ支持率が上がったのか、「意味が分からない」など困惑するような声が相次いだ。一方、上昇した要因について、岸田総理が5月1日から7日の日程でフランス、ブラジル、パラグアイを歴訪した成果について言及する声も多かった。
実際「外遊効果」はあるのだろうか?
「2回分」の外遊効果で支持率押し上げか?補選結果で自民支持層"回帰"の可能性も
前回のJNNの世論調査は3月30日と3月31日に行った。この調査の後、岸田総理は4月10日にアメリカ・ワシントンで日米首脳会談、上下両院での議会演説などを行った。この直後の報道各社の世論調査でも内閣支持率は回復基調にあった。今回、5月4日、5日に行ったJNN世論調査は、”外遊2回分”の結果が出たということになる。
「総理の外交を見て、『岸田さん、一生懸命やってるじゃないか』という感じになったと思う。総理の顔が生き生きしてるでしょ」(閣僚経験者)
こう分析する閣僚経験者もいた。確かに補選で全敗したことなど内政のネガティブなニュースが一転、外遊では成果が強調される傾向にある。ある総理側近は「支持率は底を打った」との見方を示すが、7ポイントも”急上昇”したことには、当初外遊で支持率回復を期待した官邸幹部でさえ、戸惑いを隠さなかった。
一方、別の官邸幹部は全敗した補選結果も影響しているのではないかと分析する。
「補選の結果を受けてその声に耳を傾ける、やるべきことをやるという姿勢が評価されたのではないか」(官邸幹部)
後述するが、今回の世論調査では「政権交代」を望む声(48%)が、「自公政権継続」を望む声(34%)よりも大きく上回った。政権交代をのぞむ世論が以前にも増しているこの状況に危機感を抱く一定の自民党支持層が回帰した可能性もある。
ウクライナ電撃訪問時も支持率アップ でも広島サミットでは…
外遊で支持率が上昇した例は過去にもあった。23年3月の調査で内閣支持率は38.3%だったが、4月調査では44.3%と6.0ポイント上昇した。このときは、3月16日に日韓首脳会談があり、63%の人がこの会談を「評価する」と答えた。さらに同月21日には岸田総理がウクライナを”電撃”訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。この際も66%の人が「評価する」と答えた。この2つの外遊が主な要因で、6ポイント上昇したとみられる。
ちなみに、23年の最大の外交イベントだった5月の広島サミット後の支持率が、(4月)47.2%→(5月)46.7%と下落したのは、マイナンバーのひも付けミスが相次いだことや、総理公邸内で忘年会を開き、親族と記念撮影をするなどした行動に批判が集まった長男・翔太郎氏の秘書官更迭によるものが大きかったと見ている。当時、閣僚経験者からは「サミットの効果が消えちゃったよ。翔太郎の問題はキツかった」などと恨み節が聞かれた。
内閣支持率アップに貢献するのは「人事」と「外遊」
外交は支持率アップに効果があるのか。2000年以降の内閣で、1か月で5ポイント以上支持率を伸ばした主な例とその主な要因をあげると以下のようになる。
【小泉内閣】
2001年11月76.7% →12月83.8%(+7.1)道路公団民営化など特殊法人改革
2002年9月58.6% →(同月20日)75.2%(+16.6)北朝鮮訪問し日朝首脳会談
【第一次安倍内閣】
2007年8月26.9% →9月42.2%(+15.3)内閣改造
【福田内閣】
2008年7月30.4% →8月35.4%(+5.0)G8洞爺湖サミット、内閣改造
【麻生内閣】
2009年3月17.7% →4月26.3%(+8.6)追加経済対策
【菅(かん)内閣】
2010年8月45.0% →9月55.5%(+10.5)内閣改造
2011年3月18.0% →4月32.1%(+14.1)東日本大震災での対応(への期待?)
【野田内閣】
2012年11月25.2% →12月31.4%(+6.2)党首討論での解散表明
【第二次安倍内閣】
2013年1月66.9% →2月76.1%(+9.2)経済対策、TPP交渉
2015年10月47.3% →11月53.7%(+6.4)内閣改造
【菅(すが)内閣】
2021年8月32.6% →9月40.8%(+8.2)総裁選不出馬を表明
辞任表明前後の月ではいわゆる”同情票”で支持率が急回復するケースはよくあるが、そういった例外を除けば、過去の政権で支持率は内閣改造など人事、外交、経済対策などで急増するケースが多くみられた。支持率低迷にあえぐ過去の政権が、人事を刷新して支持率回復を狙うという例は何度もある。
戦後歴代最長の外務大臣をつとめ「外交が得意」とされる岸田総理も、拉致問題の進展のため北朝鮮を訪問し、金正恩総書記との首脳会談に意欲を示す。2002年初めて北朝鮮を訪問し、日朝首脳会談を行った小泉純一郎元総理は訪朝前後で+16.6%と大きく支持率を伸ばしたが、あれから20年以上経過し、拉致被害者家族が高齢化する中、訪朝だけで支持率が伸びるかといえば懐疑的な見方も多い。
「政権交代をのぞむ」声が48%に 立憲は”立党時”の水準に回復
前回に引き続き「自公政権の継続をのぞむ」か「立憲民主などによる政権交代をのぞむか」を聞いた。前回に比べ「無回答」が減った影響で、両方とも前回より増えているのだが、「政権交代」が前回調査より6ポイントあがって48%、「自公政権継続」が2ポイントあがって34%という結果となった。では政権交代の可能性は高まっているのか?
「俺が好きだった自民党はこうじゃない、自民党目覚めてくれって言う、自民党支持者の人が自民党を好きであるが故に変わって欲しいと願いを込めて入れるとこういうこと(政権交代)が起こる」
5月10日TBSのCS「国会トークフロントライン」に出演した自民党の石破茂元幹事長は政権交代についてこのように話し危機感を示した。
では自民党支持層に限って分析してみると、「自公政権継続をのぞむ」は前回調査より13.1ポイント上昇して77.8%、「政権交代をのぞむ」は0.8ポイント下落して13.5%だった。自民支持層の一定数が前回調査よりも「自公政権継続」をのぞむ意見に”回帰”したことが推測される。
一方、各党の支持層は以下の通り。
自民党は23.4%で民主党政権からの復帰後、最低の数字を更新した。この数字は自民党(麻生内閣)が下野する直前、2009年8月の23.8%と同水準だ。
一方、野党第1党の立憲民主党は前回調査から4.1ポイント上昇し、10.2%とおよそ6年ぶりに2桁台に戻した。立憲民主党が2017年に立党した直後の11月調査が11.0%だったので、その水準近くまで回復したことになる。
2009年の政権交代直前は自民、民主(当時)の支持率はほぼ拮抗、民主が自民支持率を追い越す月もあった。
現在は差が縮まってきているとはいえ、立憲と自民の支持率が10ポイント違う。有権者が立憲を中心とするいまの野党の政策で判断しているのか、裏金事件を受け「自民党にお灸を据えるため」一時的な受け皿になっているだけか、冷静に分析していきたい。
【質問項目と結果は以下の通り】
●岸田内閣の支持率は29.8%。前の調査より7.0ポイントの上昇。不支持率は67.9%で前の調査より7.1ポイント下落。
●政党支持率では自民党の支持が23.4%(1.6ポイント下落)。立憲民主党は10.2%(4.1ポイント上昇)。日本維新の会は4.6%(0.3ポイント上昇)。
●衆議院の3つの補欠選挙で自民3敗、立憲3勝の結果について「大いに納得」が27%、「ある程度納得」が52%、「あまり納得しない」が13%、「全く納得しない」が4%。
●政治資金規正法の自民党の改正案について「大いに評価」が5%、「ある程度評価」が21%、「あまり評価しない」が38%、「全く評価しない」が34%。
●日本国憲法を「改正すべき」が49%(前年同月比で+1)、「改正すべきではない」が35%(前年同月比で変化なし)。
●岸田総理にいつまで続けて欲しいかについて、「すぐに交代」が27%、「9月の総裁任期まで」が60%、「できるだけ長く」が9%。
●衆議院の解散時期について、「なるべく早く」が22%、「9月の総裁選より前」が28%、「9月の総裁選より後」が22%、「来年の任期満了まで行う必要はない」が23%。
●次の衆院選で「自公政権の継続をのぞむ」が34%(前回調査比+2)、「立憲などによる政権交代のぞむ」が48%(前回調査比+6)。
●自民党の中で次の総理にふさわしい人は(あいうえお順、敬称略)「石破茂」24.2%、「加藤勝信」1.4%、「上川陽子」7.8%、「岸田文雄」4.5%、「小泉進次郎」14.1%、「河野太郎」8.4%、「菅義偉」7.0%、「高市早苗」6.1%、「野田聖子」1.8%、「林芳正」0.9%、「茂木敏充」0.3%、「その他の議員」8.2%。
【調査方法】
JNNではコンピュータで無作為に数字を組み合わせ、固定電話と携帯電話両方をかけて行う「RDD方式」を採用しています。
5月4日(土)、5日(日)に全国18歳以上の男女2143人〔固定850人、携帯1293人〕に調査を行い、そのうち47.3%にあたる1013人から有効な回答を得ました。その内訳は固定電話508人、携帯505人でした。
インターネットによる調査は、「その分野に関心がある人」が多く回答する傾向があるため、調査結果には偏りが生じます。
より「有権者の縮図」に近づけるためにもJNNでは電話による調査を実施しています。無作為に選んだ方々に対し、機械による自動音声で調査を行うのではなく、調査員が直接聞き取りを行っています。固定電話も年齢層が偏らないよう、お住まいの方から乱数で指定させて頂いたお一人を選んで、質問させて頂いています。
TBS政治部 世論調査担当デスク 室井祐作
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