黄緑からネイビーのスーツへ~ “ポスト岸田”を狙うのはいつか
「ネイビーやダーク系のスーツを着たらどうですか」
去年、林芳正氏と長年行動を共にしてきたある議員は、ゴルフ場で林氏にこんなアドバイスを送った。林氏はそれまで黄緑やグレーのスーツを着ることが多かったが、「ネイビーやダーク系のほうがより引き締まって見えるから」だという。
2023年12月、自民党の派閥の政治資金問題を受けて辞任した松野官房長官の後任として、林氏はネイビーのスーツで初の官房長官会見に臨んだ。
林氏にスーツの色のアドバイスをした議員は、「本格的に総理の座を狙うにあたり、いろいろブラッシュアップしている」と解説してくれた。他にも林氏の周辺からはこんな声が聞こえてくる。
林氏周辺
「以前よりも見え方を気にするようになった」
別の林氏周辺
「官房長官になって露出が増えたので、本人は嬉しそうだ」
自民党総裁選に出馬した経験があり、外務大臣、農水大臣、文部科学大臣・・数々の要職を経て、たどり着いた官房長官の座。残るポストは総理大臣だが、今は、岸田総理を支えることに徹している。
岸田総理との距離感は?
政府関係者に聞くと、官邸幹部が定期的に行う内部の会合で、岸田総理は必ずと言っていいほど、林官房長官に「林さんはどう思う?」と意見を求めるという。
その際に林官房長官は、的確な返答をし、岸田総理は「精神的にも支えられているのだろう」と見立てる。
林氏は、去年9月に外務大臣を退任し、岸田総理から派閥に専念するよう命じられたが、その3か月後に官房長官として急遽登板することになった。
これは、岸田総理が林氏を頼りにしていることの証左と言える。
そんな林氏の現在の胸中はどのようなものか。また、再び総裁選に挑戦するのはいつなのか。
“自民党の119番”の政治手法
自民党きっての政策通で、「局面打開のピンチヒッター」
林氏の人物評として多く聞かれるのは、このような声だ。
これまで閣僚の“不祥事”などがあった際、急遽火消し役として登用されてきた経歴を踏まえ、自ら「誕生日が1月19日だから“自民党の119番(緊急通報)”と言われる」と語る。
そんな林氏の政治手法は、「役割に任せる」こと。
周囲に「政治家が軽々に話しては官僚がいる必要がなくなるでしょ」と話すなど、官僚に任せるところは任せる主義だ。
一方で、官僚の説明が不十分だと感じれば、
「これだと対外的に納得が得られない。不十分だ」と練り直しを指示する。
官僚に任せつつ、判断は政治家が行い、責任も政治家がとる。
そのような政治姿勢は霞が関から一定の支持を得られているようだ。
国会議員で結成のバンド G!inz(ギインズ)の絆
林氏は音楽好きで知られ、外務大臣時代にはG7外相会合の夕食会でジョン・レノンのイマジンをピアノで弾き語る「ピアノ外交」を展開した。そんな林氏が自民党の国会議員で結成したバンドが「G!inz(ギインズ)」。自身はバンドマスターとして作詞・作曲を担っている。
メンバーは自民党の浜田靖一国対委員長、松山政司参院幹事長、元国会議員の小此木八郎氏だ。それぞれのメンバーに林氏の印象を聞いた。
自民・浜田靖一国対委員長
「怒ったところを見たことがない。うらやましいくらいの能力があり、交友関係が幅広くて、敵を作らないタイプ」
「同じ花を見て綺麗と思えるような、感覚的に合うところがある」
G!inzメンバー
「林さんはギラギラしていない。トップに立つ気風がある」
別のG!inzメンバー
「あれだけの能力があるから何でもできるんだけど、一方で支えてもらわないといけない人でもあるかな」
浜田氏は国対委員長として林氏とはよく連絡を取り合うそうで、官房長官・国対委員長・参議院の幹事長という政府・自民党の要職にバンドメンバーが揃っていることで国会・政権運営が円滑になっているという。
一方で浜田氏は過去の自民党総裁選では石破元幹事長や野田聖子議員の応援団となって動いたこともあるなど、政治的な動きをともにしているとはいいがたい。
自民・浜田国対委員長
「人が良すぎるところがあり(林氏が総理では)物足りないという人もいるかもしれない」
浜田氏はこんな指摘とともに、もし次の総裁選で林氏が出馬し、応援を頼まれたらどうするのかという問いに「それは、その時になってみないとわからないよ」とけむに巻いた。
“ポスト岸田”に立ちはだかる2つの壁
林氏の著書「国会議員の仕事;職業としての政治」より(2011年刊・引用は2010年の発言)
「『トップにならないとできないことがある』と気づきました。国にとって重要な事柄は最終的に総理の決断で決まる。『この方向で行こう』というアジェンダ・セッティングも、基本的に総理の仕事です。今は、本気で総理になりたいと考えています」
著書でこのように宣言してから早14年。今も総理大臣の座を目指す林氏だが、2つの壁が立ちはだかる。
ひとつは、「停滞する支持率」だ。
JNNの3月の世論調査で、「自民党の中で次の総理にふさわしい人は誰か」を聞いたところ、林氏はわずか0.5%で11位にとどまった。これまでのキャリアと比較すれば厳しい結果と言わざるを得ない。
もうひとつの壁は「宏池会(岸田派)」だ。
岸田派に所属していた林氏は、トップである岸田総理への配慮を欠かすわけにはいかない。また、内閣のナンバー2である官房長官でもある以上、岸田総理が総理を退くまでは、トップへの意欲を見せることすら義理を欠くと、多くの人は感じるだろう。
2012年に林氏が総裁選に出馬した際に推薦人となった猪口邦子参院議員は
「次の総裁選を狙うような浮足立つ人物を岸田総理は官房長官にそもそも任命しない」と、岸田総理が林氏を重宝するのは“献身的なサポートを惜しまない”「信頼度の証し」だと話す。
さらに、本来は総裁選出馬に必要な「20人の推薦人」確保に大きな役割を果たす派閥が、もはや解散を決めてしまったという事情もある。
実は、1月に岸田総理が派閥の解散検討を表明した際、事前に知らされた林氏は反対したと複数の関係者が証言している。ある側近議員は「派閥がなくなってしまっては、自身が総裁選に出るときに基盤がなくなると思ったのだろう」と解説した。
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