暴力団トップとその運転手が、非暴力団員の弟の名義のETCカードを使って高速道路を通行することは、罪に問われるのか……。注目の裁判の判決公判が5月8日に大阪地裁で行われ、地裁は暴力団トップに懲役10か月の実刑判決を言い渡しました。

▼“堅気”の弟名義のETCカードで阪神高速を通行 1400円の割引が「詐欺罪」に問われる

検察の論告資料によりますと、暴力団トップの秋良こと金東力被告(67)と、その運転手である新田晋こと李晋被告は、2022年11月~12月、東力被告の弟である金裕司被告(暴力団員ではない)の名義のETCカードを挿入した車に乗り、阪神高速道路を2回通行。合計で1400円のETC割引の適用を受けました。車に裕司被告は同乗していませんでした。

大阪地検は東力被告と李被告の行為について、「名義人本人のみの利用を定めた阪神高速道路の営業規則や、ETCカードの発行会社の利用規定に違反している。現金で料金を支払った場合との差額1400円は、『財産上不法の利益』で阪神高速道路の損害にあたる」と判断。裕司被告も含め3人を、電子計算機使用詐欺の罪で起訴しました。

内偵捜査をしていた大阪府警の警察官がカードの使用状況を把握。府警から問い合わせを受けた阪神高速道路が被害届を出したことが、立件に至ったきっかけでした。

▼弁護側「公訴権の濫用だ」

東力被告ら3人は「阪神高速道路をだますつもりはなかった」「親分が乗った車を、その弟の名義のETCカードを使用して運転することが詐欺にあたるとは考えていなかった」と弁解し、無罪を主張。

弁護人も「親族間でのETCカードの貸し借りは世間ではよく行われている。被告らは、同様の行為を行った一般人と異なる扱いを受けており、公訴権の濫用だ」と訴えていました。

▼検察側「一般と事情異なる。暴排条項が骨抜きになる」

これに対し検察側は、

▽起訴分以外にも、2022年に1000回近く今回のETCカードを使用していたと認められるなど、常習的犯行の一環である 

▽例えばコンビニなどでのクレジットカードの少額決済では、暗証番号入力などが省略されるが、そのような場合でも、他人名義のカードの利用に詐欺罪が成立することは実務上定着している。

▽被告らは一般のETCカード保有者と事情が異なる。ETCカードを作成・使用できない現役暴力団員が、堅気の同居の家族名義のETCカードを使うことを許容すれば、暴排条項が骨抜きになってしまう、などと反論。

東力被告については懲役1年6カ月、李被告については懲役1年、裕司被告については懲役10カ月をそれぞれ求刑していました。

大阪地裁は8日、東力被告に懲役10か月の実刑判決を言い渡し、李被告と裕司被告について懲役10か月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。

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