セルフレジや飲食店の注文などの場面で、タッチパネルの普及が進む。目の見えない人には凹凸のないパネルはどこを押していいのか分からない。人件費削減や人手不足解消に役立つデジタル化の推進が、視覚障害者の暮らしに新たな壁をつくっている。(鈴木里奈)

◆助けを呼べばできるけど、そうじゃない

 「店員や駅員を呼べば良いと言われればそうだけど…」。東京都の荒川区視力障害者福祉協会の長島清会長(62)は、これまでできていたことができなくなり「自立を阻まれている」と感じている。

全盲の長島清さんは白杖を使って生活している

 荒川区町屋の職場近くのスーパーでは、支払い方法をタッチパネルで選ばなければいけない。全盲の長島さんは店員に操作してもらっている。カードの暗証番号は知られたくないので、スマートフォンのバーコード決済を使う。混雑時は店員に申し訳ないと、買い物には行かないようにしている。  銀行のATMは、一部の操作がタッチパネルでないとできない。行員に暗証番号を口頭で伝えて入力してもらう必要がある。視覚障害のある仲間も、マイナ保険証の利用時にタッチパネルで暗証番号の入力を求められ困っている。「信用はしているが、個人情報が守られているだろうかという不安は消えない」

◆止まらない「無人化」の流れに恐怖感

 タッチパネルではなく、突起のあるボタンがあれば自分で操作できる。対応できるスタッフがいてくれれば不安もないが、利用者の少ない駅や店舗の無人化の流れは避けられない。  「今後、より無人化が進むのはおそろしい。世の中は便利になるが、われわれにはバリアーが増えてくると知ってほしい。バリアフリーと人手不足の問題の折り合いを付けなければ、世の中が成り立っていかない」と訴えた。   ◇

◆盲導犬の「拒否」は44%も 半分は飲食店

 盲導犬を利用する視覚障害者から聞き取った日本盲導犬協会の調査では、タッチパネルの操作を「できない」と回答した人が34%いた。利用を促されることが増えたスマートフォンのアプリも「使いづらい」との声がある。デジタル化で、目の見えない人が取り残されている現状が浮かぶ。  協会の担当者は「暗証番号を入力するタッチパネルでは数字の並びが毎回変わるものもあり、目が見えない人は対応できない」と指摘。障害者差別解消法の改正で4月から民間業者に合理的配慮が義務付けられ、「ハード面で全て整えられないにしても、配慮する理解が広まれば」と話した。  調査は、2023年の1年間で視覚障害者が感じた社会参加への障壁などを、協会職員が電話やメールで聞き取り、236人が答えた。16年から毎年実施している。  盲導犬を伴っての受け入れ拒否も後を絶たない。「拒否」を経験したのは103人(44%)。場所としては飲食店が114件(55%)と最多で、電車やタクシーなど交通機関が25件(12%)と続いた。(小川慎一)

 障害者差別解消法 2016年4月施行。障害を理由とした不当な差別を禁止し、障害者の申し出に応じ、負担が重すぎない範囲で生活上の困りごとや障壁を取り除く「合理的配慮」を国や自治体に義務付けた。24年4月から、義務の範囲は民間事業者にも拡大した。違反しても直接的な罰則はないが、国などは必要に応じて事業者に報告を求め、指導や勧告ができる。合理的配慮とは、車いす利用者のための段差スロープ設置や、音声でのやりとりが困難な人のための筆談や読み上げ、手話での意思疎通などを指す。



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