ふぐの本場として知られる山口県で、小学生ふぐ処理師が2023年8月に誕生しました。フグをさばくための資格「ふぐ処理師」の試験に、山口県宇部市の小学6年生が合格。実は、今年で2回目の挑戦です。将来の夢のため、諦めたくない…「小学生ふぐ処理師」誕生までの道のりを追いました。

山口県宇部市の中村智弥くん(11)。魚を食べることが大好きな小学6年生です。白い調理服に身を包み、7月にふぐ処理師の試験に挑戦しました。

中村智弥くん(去年・当時小5)
「将来お父さんやお母さんに、フグとかを食べさせてあげたいから。(Q将来の夢は?)料理人」

料理人の夢に向けて。智弥くんは去年も、ふぐ処理師に挑戦しました。大好きなゲームを我慢して、自宅近くの料理店で練習を重ね、挑んだ試験でしたが・・・。

試験官の声
「終了です、作業止めて」

制限時間内に作業が終わらず、結果は、不合格でした。

中村智弥くん(去年・当時小5)
「くやしいです(涙)」

技術・体力ともに成長・・・2度目の挑戦

あれから、1年。

宇部市の料理店に、今年も智弥くんの姿がありました。リベンジに向け、フグをさばく練習をしていました。去年は慣れない手つき、苦しい表情を見せていましたが、今年はハンマーを使いこなし、1人で素早くさばいていきます。1年前とは、明らかに手ぎわが違います。

フグには猛毒があるため、都道府県が認めた人しか毒のある部分を取り除く処理ができません。これまで資格を取るには3年間の実務経験が必要でしたが、2022年4月に廃止され、経験がなくても試験を受けられるようになりました。試験では20分の制限時間内に1匹のトラフグから食べられる部分をとりわけ、片づけまで終わらせなくてはいけません。

練習では、家族も見守る中、しっかり片づけまで終わらせ・・制限時間20分のところ、13分36秒でさばき切りました。去年の半分以下の早さです。智弥くんは悔しい思いをした1年前から30匹以上のフグをさばき、練習を重ねてきたといいます。

この日は試験の雰囲気に慣れようと、師匠の西村友和さんも隣で同時にフグをさばきます。どんな状況にも対応できるようにと、さばくのはいつものトラフグではなく、シマフグです。

智弥くん
「焦っちゃった…やばいやばい…どんどん突き放される」

師匠のスピードに気を取られ、手間取ってしまいました。試験は1年にたった1度だけ。予想外のことにも動じない集中力も試されます。なんとか自分のペースを取り戻し、20分以内にさばききることが出来ました。

智弥くん
「皮をやるときに、切れちゃいけないところが切れて、すごいやりにくくなってしまって、タイムロスになってしまったのが…たまたま下準備で、浮き袋を割るときに入れた包丁の跡があったので、そこからうまくカバーして」

智弥くんはこれまで、西村さんに教わりながら、フグだけでなくいろんな魚をさばく練習をしてきました。

智弥くんを指導・県調理師団体連合会理事 西村友和さん
「対応力、応用力っていうか、教科書どおり、こうやってやってやるんだよってなってたら、予想外の場面が出てきたときに対応ができないと思いますし、数こなしてほかの魚もさばいたことによって、そういうアクシデントがあった時にも十分対応出来たんではないのかなと思います」

フグをさばくには、技術だけでなく、力も必要です。まだ小学生の智弥くんは、去年、力のなさにも苦労していましたが、1年で身長も伸び、体力もついてきました。

西村さん
「1年前に比べたら断然の力量の差ですね。この1年、教えたことに成長が出来たんだなとすごい実感しました」

心も体も、少し大人になったようです。そんな智弥くんの成長を、家族は1番近くで見守ってきました。

父・中村嘉寿さん
「すごいね、変わったねほんと1年ですごい変わった。このフグの試験を受けるって決まってから、すごいやる気になってね。今までずっとのほほんとしてたのに。すごいうれしいよ」

お父さんは去年、智弥くんの11歳の誕生日に、「マイ包丁」をプレゼントしました。智弥くんは試験への挑戦をきっかけに、自分から「やってみたい」と言うことが増えたといいます。

母・佑子さん
「今まで自分からやるとかね」
妹・美咲ちゃん
「あんまりなかった」
佑子さん
「あんまりなかったよね。できるようになったこととか、頑張ったことを身になって自分で分かってるのがすごくいいなと思います。僕力ついてきたような気がするって自分でも言うんで」

そんなお母さんのおなかには、新しい命。試験の数日前が、出産予定日です。

智弥くん
「料理人になって家族を店に呼びたいなって」
母・佑子さん
「楽しみ」
智弥くん
「おなかの中の赤ちゃんには、生まれてからすぐでも食べさせてあげたいなって、できないけど」

さらにお兄ちゃんになる、智弥くん。いつも応援してくれる家族にいいところを見せたいと意気込みます。

智弥くん
「自信満々に、試験合格したよみたいな感じで言いたいなって」

いよいよ試験当日・・・実力発揮できるか

「ふぐ処理師」試験当日。

智弥くん
「まあ去年よりかは、緊張はしてないです」

試験の直前が出産予定日だったお母さんも、応援に来ることができました。いよいよ、1年に1度の試験が始まります。試験は20分で、1匹のトラフグから食べられる部分をとりわけ、片づけまで終わらせます。

試験官
「それでは始めて下さい」

去年は緊張でハンマーを出し忘れ、固い頭を割るのに苦戦していましたが…今年は順調にさばいていきます。緊張感の走る部屋で、審査員の鋭い視線が向けられますが、自分のペースを乱しません。初めて挑戦した去年は、力のなさと経験の少なさから、時間内に作業を終えることができませんでした。今年は、表情に余裕があるようです。

試験官
「終了です、作業をやめてください」

時間内に作業を終えることができました。

母・佑子さん
「どうだった?」
智弥くん
「いい感じ」
母・佑子さん
「ほんと?よかった」

去年の涙とは全く違い、満足げな表情です。練習の成果はきちんと発揮できたようです。

智弥くん
「やっぱ大将とか、みんなが応援してくれたりしたから、できたんじゃないかと思います。(Q:去年はここでさ、ちょっと涙も流れたけど、今年はどう?)逆に今できて泣きそう…」

多くの人に支えられ、プレッシャーにも打ち勝ちました。

合格発表・・・結果は?

8月1日。いよいよ、結果発表です。智弥くんの番号は10番です。

智弥くん(タブレットで合格発表を見ながら)
「こわいこわい…7、8、9、10、11、12、やった!」

見事、合格。いっぱいの笑顔があふれます。そして…喜びを伝えたい人が1人増えました。試験の数時間後に生まれた妹・杏南ちゃんです。さらにお兄ちゃんになった智弥くんは、県内の小学生では初めての「ふぐ処理師」となりました。

智弥くん
「うれしくて泣きそうな感じです。去年試験に落ちた時のこととか、今年できたときの、実技のときのこととかを思い出しました」

安心したのか、目にはうっすらと涙。これまでずっと練習してきた料理店で、応援してくれた人たちとお祝いです。師匠の西村さんが合格祝いにすしを握ってくれました。智弥くん、11歳での試験合格は、これまでの記録17歳を抜いて県内最年少。将来の夢に向けて、大きな一歩を踏み出しました。

智弥くん
「まだ未完全かもしれないから、もっと完璧にできるんじゃないかなって。できるだけ完璧にして、いろんな人に食べさせてあげたいなと思います。将来は料理人になりたいです」

多くの人に支えられ、智弥くんは夢に向かって走り続けます。

(mixで2023年に紹介した特集の中から、ゴールデンウイークに家族で楽しんでもらいたい話題をピックアップしました)

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