初めまして。気象予報士の辻村奈都子です。

 きょう12月17日は「飛行機の日」です。1903年のこの日、ライト兄弟が動力飛行機の初飛行に成功したことに由来しています。私は気象予報士の仕事を始めるまで、7年間、航空会社の客室乗務員として国内線と国際線に乗務していました。乗務時間は計4500時間、地球195周分に及びます。


(インド 世界遺産の「タージ・マハル」 大理石でできていて美しく圧巻でした)

 今回から、客室乗務員と気象予報士の経験を踏まえて「飛行機と天気」の関係について紹介していきます。

「ジェット気流」ってなに?「偏西風」との違いは?

 早速ですが、今回のテーマは「ジェット気流」です。

 飛行機に乗っていて同じ路線なのに行きと帰りでかかった時間が違ったという経験はありませんか?例えば、東京(羽田)と福岡間の時刻表をみると、羽田発福岡着の飛行時間は2時間ですが、福岡発羽田着の飛行時間は1時間35分と、約30分の差があります。他の路線をみても、西へ向かうときよりも東へ向かうときの方が飛行時間の短い便が多いのです。これには「ジェット気流」と呼ばれる上空の風が関係しています。

 天気予報のなかで偏西風という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ジェット気流とは、大きく分類すると偏西風です。偏西風のなかでも、上空1万m前後に吹いている特に強い西風をジェット気流と呼んでいます。飛行機もジェット気流が吹く高さと同じくらいの高度を飛んでいるため、飛行機の速度はジェット気流の強さに左右されるのです。

 つまり、羽田から福岡へ向かうときは東から西に向かうのでジェット気流の向かい風を受けスピードが出づらくなります。一方、福岡から羽田へ向かうときはジェット気流に乗ることができるため、飛行時間を大幅に短縮できます。

 飛行距離が長いほどジェット気流の影響を大きく受けることになります。では、飛行距離約1万kmの羽田~ニューヨーク間ではどうでしょうか。冬ですと、行きと帰りで2時間近く飛行時間に差が出ることがあります。実は、秋から冬にかけては上空のジェット気流が強まります。ジェット気流は、赤道側の暖かい空気と極側の冷たい空気の気温差により生じますが、冬場はその気温差が大きくなるためジェット気流が強まり、結果として飛行時間の差がさらに大きくなります。


(ニューヨーク 「ロックフェラーセンター」のクリスマスツリー 毎年今の時期の楽しみでした)

“飛行時間の違い”が客室乗務員の仕事にも影響 飛行機内で工夫していたことは…

 この行き帰りの飛行時間の差は、客室乗務員の仕事にも影響があります。客室乗務員は限られた時間のなかで飲み物や食事のサービス、保安業務を行わなければなりません。そのためフライトごとのタイムマネジメントが大切になってくるのですが、特に冬場は行き帰りの飛行時間の差を意識していました。

 例えば(飛行時間の短くなる)福岡から羽田へ向かう便で、羽田発と同じように飲み物のサービスをしていては時間が足りなくなってしまいます。そのため、客数が多いエリアを経験豊富な客室乗務員が担当したり、通常はメニューカードを使用して飲み物を伺うところを口頭で簡潔に説明したりするなどしていました。

 このように、少しずつサービスの時間の短縮を図って、飛行時間内に全ての業務を終えられるようにしていました。また、自分の仕事だけに集中するのではなく常に周りの状況を見て、他の客室乗務員の仕事を手伝うなど柔軟に動くことを意識していました。

気象予報士はジェット気流を注視

 気象予報士が日々の天気図を解析する際に最初に着目するのがジェット気流です。上空のジェット気流の位置や速さによってその後の天気の移り変わりが大きく変わってくるためです。雨を降らせる低気圧や前線、高気圧などもこのジェット気流によって西から東へ移動するため、西から天気が変わることが多いのです。また、台風が日本付近で東へと向きを変えることが多いのも台風がジェット気流に乗って進むためです。

 ジェット気流というと一見私たちの生活とは関わりのないように思えますが、実は身近なところに影響を与えています。年末年始の帰省などで飛行機に乗られる方も多いのではないでしょうか。ぜひ飛行機に乗った際は行き帰りの飛行時間の差にも注目してみてくださいね。

(気象予報士 辻村奈都子)

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